東京大学は2019年5月21日、透過型電子顕微鏡法(TEM)を用いたナノスケールの応力印加その場観察により、多結晶において偏析粒界を進展する亀裂をリアルタイムで可視化することに初めて成功したと発表した。この結果、従来の考えとは異なり、亀裂は偏析層の中をジグザグに進展することを発見した。
加えて、第一原理計算によってジグザグ破壊のエネルギーを算出し、この破壊形態がエネルギー的にも低いことを示した。この研究成果は、粒界の材料強度特性への影響に関して基礎的知見を与え、粒界制御により同一材料でも高強度な構造材料を創製するための設計指針構築につながるという。
構造材料は製品の形状を保持するために用いられ、製品が変形・破壊するのを防ぐために強度が要求される。一般に用いられる多結晶材料の強度は、結晶粒界(多結晶体において結晶粒同士の境界に形成される面上の格子欠陥)の強度と密接に関係しており、結晶粒界に添加元素を集積させること(偏析)で多くの高強度材料が作製されてきた。
しかし、粒界の偏析構造がナノスケールの構造で、偏析粒界を進展する亀裂の様子を直接捉えることが極めて困難だったため、なぜ粒界偏析が粒界強度を向上させるか、粒界破壊が原子レベルでどのように生じるかについては未解明だった。
研究チームは、TEM内で材料に応力を印加しながら動的な構造変化を観察する応力印加その場観察法の1つであるTEMナノインデンテーション法を用いて、ナノスケールの構造である亀裂と粒界の動的現象をリアルタイムで可視化。亀裂が偏析粒界を伝播する素過程とそのメカニズムの解明を試みた。
この結果、アルミナージルコニア添加系の材料ではジルコニア偏析層の真ん中を亀裂がジグザグに進展することを発見した。これは、破壊が必ずしも従来考えられてきた直線的な粒界破壊に起因するのではなく、系によっては複雑な破壊経路をとることを示しており、偏析粒界の存在が材料強度に与える影響を考える上での基礎的知見となるという。
さらに研究チームは、このジグザグ破壊のエネルギーを第一原理計算という手法で算出し、この破壊形態がエネルギー的にも低いことも明らかにした。これらの結果は、偏析元素により粒界を制御することで材料強度向上を図れることを示唆している。
今後は、どのような元素を粒界に偏析させれば材料強度を向上できるかの解明や、希少元素の添加や材料そのものの代替が不要な高強度構造材料の創製が期待されるという。