- 2019-7-26
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- Nature, シリコン, シリコン太陽電池, テトラセン, ハフニウムオキシナイトライド層, マサチューセッツ工科大学(MIT), 一重項励起子分裂, 励起子
マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究チームは、従来のシリコン太陽電池の理論的限界を上回る変換効率を持つ太陽電池を作製する手法を開発した。通常、シリコンベースの太陽電池では、1つの光子から生成できる電子は1つだけだが、セル界面の材料を工夫することによって、1つの光子から2つの電子を生成することに成功した。研究結果は、2019年7月3日付けの『Nature』に掲載されている。
この手法の基となった現象は、光を吸収して励起状態になった「励起子」が急速に2つの励起状態に分裂する「一重項励起子分裂」だ。有機化合物テトラセンは、この現象によりエネルギーが2つに分かれ、1つの光子から2つの電子を生成することが以前から知られている。しかし、光吸収層にテトラセンを用いても、励起子材料ではないシリコンセルまで効率よくエネルギーを転送することは簡単なことではなかった。
エネルギー転送の鍵となったのが、シリコンとテトラセンの中間に配したハフニウムオキシナイトライド層だ。厚さわずか8オングストロームの薄い層が「素晴らしい架け橋」となって、1つの高エネルギー光子がシリコンセル中の2つの電子をたたき出すことに成功した。これにより、理論上約29.1%といわれている太陽電池の変換効率を約35%にまで高める可能性が見えてきた。
今回開発したセルはまだ最大効率に達しておらず、構成の最適化や耐久性の検討など課題は残っているという。実用化にはまだ数年かかるかもしれないが、研究チームはこの技術に期待を寄せている。