産業技術総合研究所(産総研)は2019年8月29日、薄い樹脂フィルムの表面に感度の高い温度検出部を多数配列した温度分布センサーシートを開発したと発表した。
一般的な温度計測では、体温測定時のように計測器を固定したある一点の計測結果を用いることが多い。しかしこうした計測方法では、測定器の固定方法やわずかな位置の違いによって計測結果が変わってしまい、得られる情報も限定的だった。他方、分布を含めた正確な温度計測を行う上で、赤外線カメラの観察視野内の温度分布を目で見るように計測できる赤外線サーモグラフィーは優れた技術として知られている。しかし、同手法では測定対象をカメラの視野内に捉えて計測するため、密閉された容器の内部や他の物の背面に隠れた物体の計測は困難だ。また、赤外線カメラには一定の焦点距離が必要なため、狭い空間への適用も難しい。
こうした表からは見えない箇所の温度計測は、多数のセンサーによって状態を把握し、業務の効率化や高度なサービスへつなげるIoTの推進には特に重要となる。IoTでは、機器の内部や底部など従来測定が困難だった箇所の情報の取得が求められるためだ。こうした背景を受け、薄い基板の表面に温度検出部を配列させた温度分布センサーシートの開発が近年進められているが、計測可能な温度範囲が狭いため用途が限られており、また温度の計測精度についても課題があるなど、さらなる性能向上が求められていた。
今回開発した温度分布センサーは、樹脂フィルムの表面に格子状に並べた多数の温度検出部によって、面内の温度分布を一括して計測する。温度によって大きく電気抵抗が変化する抵抗体(感温性抵抗体)を各温度検出部に用いることで温度分布センサーシートの高性能化に成功した。薄いシート状のため、赤外線サーモグラフィーでは観察が困難な密閉空間や狭所の温度分布も計測できる。
また、計測可能な温度範囲を5~140℃と従来の開発品よりも幅広い温度に拡大したことで、日常生活内での温度計測から工場や製造装置の温度管理、気流計測など多岐にわたる温度分布計測への応用が可能となった。さらに、開発されたセンサーシートの全製造工程は印刷技術によって行われるため、シートの大面積化や低コスト生産も期待できるとしている。
今回開発したセンサーシートは、2019年9月4日〜6日に幕張メッセ国際展示場で開催される「JASIS 2019」において一般公開予定だ。