東京大学は2019年10月4日、半導体へテロ構造を用いて、高効率な冷却素子を開発したと発表した。
トランジスタや半導体レーザーなど、ほとんどのデバイスは、印加した電圧と電流の積に比例した熱が発生し、この発熱を効率よく冷却する技術開発が急務となっている。
現在、熱電効果を用いたペルチェ素子がほぼ唯一の実用的な固体冷却素子であるが、ペルチェ素子内では、電子は頻繁に散乱を受けながら伝導するため、低い冷却効率しか達成していない。
研究では、半導体へテロ構造を適切に設計し、共鳴トンネル効果と熱電子放出を制御して実現できる熱電子放出冷却技術に注目。この素子構造では、薄くてエネルギー障壁が高い障壁層を介して、電子が共鳴トンネル効果により量子井戸層に注入される。注入された電子は、量子井戸層内で熱的な分布を取りながら、量子井戸層を出るときには、低くて厚い障壁の高さ以上のエネルギーを持つ高エネルギーの熱電子のみが超えていくという過程で電子が伝導。電流が流れ、量子井戸層内の電子系からエネルギーが奪われていき、電子系の温度が下がる仕組みだ。これは、水が蒸発するときに熱が奪われる現象と似ている。
電子系と熱的に接している量子井戸内の結晶格子系とが相互作用し、格子系も冷却されていく熱電子放出冷却と呼ばれる現象が同素子の動作原理だ。
この素子構造では、数nm程度の半導体超薄膜内に冷却効果が発生するため、極薄膜中の温度を精密に測定する技術の開発も必要であったという。量子井戸内の電子系の温度を評価する方法として、フォトルミネセンス分光法に注目し、フォトルミネセンスピークの高エネルギー側のスペクトル形状から電子系の温度を評価する実験を行った。
この実験では、作製した非対称二重障壁半導体ヘテロ構造にレーザー光を照射し、電圧の関数として素子からのフォトルミネセンスを測定。さらに、フォトルミネセンスのスペクトルの高エネルギー側の裾野の傾きを、マックスウェル分布を仮定してフィッティングを行い、電子温度をバイアス電圧の関数として求めたという。
その結果、バイアス電圧の印加によらず、電極内の電子温度はほぼ室温で一定であるのに対して、量子井戸からの発光においては、バイアス電圧の印加とともに、スペクトルの裾野の傾きが急になり、電子温度が300Kから250Kまで、約50Kも低下し、理論計算とも一致したという。
同素子は従来の固体冷却素子のおよそ10倍の高い冷却能力を持つと期待され、トランジスタや半導体レーザーなどのデバイス活性層を局所的に高効率に冷却する新しい素子技術として、省エネルギーに貢献する。今後は、素子構造の最適化により冷却パワーの改善を図るとしている。