- 2020-1-11
- 化学・素材系, 技術ニュース, 海外ニュース
- Mikhail Katz, ウィスコンシン大学マディソン校, カモフラージュ, ニッケル酸サマリウム(SmNiO3), 材料特性化, 温度勾配, 熱伝導, 熱放射現象, 米国科学アカデミー紀要(PNAS), 赤外線カメラ, 超薄膜コーティング
米ウィスコンシン大学マディソン校は、2019年12月18日、特定の温度で通常の熱放射現象を覆す新しいコーティング材料を開発したと発表した。研究成果は、2019年12月17日付で『米国科学アカデミー紀要(PNAS)』に掲載されている。
同校のMikhail Katz教授を中心とする研究チームが開発した超薄膜コーティングの材料は、ニッケル酸サマリウム(SmNiO3)だ。このコーティングを施した物体の温度に関わらず、コーティング薄膜は一定の温度の熱を発するという。
「固体において温度と熱発光が分離されたのは初めてのことです。私たちは、温度と熱放射との関連性を『壊す』コーティングを特定の方法で作り上げました」とKats教授は語る。
コーティングの放射率は実際に温度とともに低下して、その固有放射を打ち消す現象が起こるため、コーティング自体は温度に関係なく一定量の熱放射を発するという。現時点では、この現象が発生するのは105~135℃の範囲に限定されている。
研究チームは、ニッケル酸サマリウムを合成して詳細な材料特性化を行い、粒子を加速するシンクロトロンが放射する高輝度の光を用いてコーティングの原子レベルでの反応を観察したという。
研究室の実験では、サファイアをヒーターにつり下げ、コーティングの有無による違いを分析。サファイアの一部分をヒーターに当て、ヒーターに当たっていない部分は冷たい空気にさらされる状態で固定し、赤外線カメラでそれぞれのサファイアの温度勾配を観察した。その結果、コーティングされていないサファイアでは明らかに色の違いがあり温度勾配が見られたが、コーティングされたサファイアの熱画像はほぼ均一の色であったという。
さらに開発を進めれば、このコーティングは熱伝導やカモフラージュに応用できるだけでなく、昨今、赤外線カメラが普及していることから、個人のプライバシー保護のための衣服にも応用できるだろうとKatz教授は語っている。