部屋や車内を丸ごとスピーカーに――MIT、極薄型圧電スピーカーを開発

Credits:Image: Felice Frankel

マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究チームは、紙のように薄い圧電スピーカーを開発した。車の内装や部屋の壁紙に使うと、没入型の高品質なオーディオ体験を作り出せる。また、軽量で消費電力も小さいため、バッテリー容量に制約のあるスマートデバイスにも適する。研究結果は、2022年2月15日付けで『IEEE Transactions ofIndustrialElectronics』に公開された。

一般的なスピーカーは、磁石と電流、コイルの作用により振動板を動かし、その振動が空気に伝わることで、音として聞こえる。一方、研究チームのスピーカーは、薄い圧電材料に電圧をかけて振動させるシンプルな構成だ。ただし、従来の圧電スピーカーと違って、物の表面に貼り付けても、振動が抑制されることなく音を出せる。

その違いは、材料全体を振動させるのではなく、圧電薄膜のPVDF(ポリフッ化ビニリデン)をマイクロスケールのドーム状に加工して並べ、それぞれ振動させた点にある。そして、物の表面に貼り付けても自由に振動できるように、ドームの上下をPETシートで挟んだ。これらPET層は、使用時の衝撃や摩耗からスピーカーを保護し、耐久性を高める役割も持つ。ドームの高さは15μmで、振動時は0.5μm上下する。マイクロドームひとつひとつが音響生成ユニットで、数千個が一緒に振動し、人に聞こえる音となる。

作り方は「非常にシンプルで簡単だ」と研究チームは説明する。まず、PETシートにレーザーで小さな穴をいくつも開ける。PVDFシートの上に穴の開いたPETシートを重ね、真空処理と熱処理を施すと、PETシートの穴からPVDFがドーム状に隆起する。最後に、もう一枚のPETシートで下面をラミネートすると、薄膜スピーカーの出来上がりだ。

PETの穴を変えれば、ドームの大きさも変えられる。ドームを大きくすれば、より大きなサウンドを生む。しかし、大きくしすぎると共振周波数が低くなり、音のひずみが発生する。研究チームは、ドームの大きさと圧電層の厚みを変えながら、ひずみの少ない最適な組み合わせを探した。

試作品は、手のひらサイズの大きさで、重さは約2g。スピーカーを壁に取り付け、30cm離れた場所の音圧レベルを測定したところ、25V、1kHzの条件で66dB(会話レベル)、10kHzでは86dB(街の交通量レベル)だった。家庭用スピーカーを同じ音圧、同じ距離で使用すると1W以上消費するが、研究チームのスピーカーは1平方メートルあたり約100mWと少ない。

建物や車両の内装と統合して没入感の高いスピーカー、またはノイズキャンセラーとしても使える。さらに音響分野だけでなく、超音波イメージングや、化学薬品の撹拌にも応用できるという。用途には限りがない、と研究チームは期待を寄せている。

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