注射針を使わないワクチン接種法を開発――口の中で溶けて廃棄物も出ない

Stephen C. Schafer, CC BY-ND

米テキサス大学オースティン校は、2020年3月4日、注射器や針を使わず、口の中で溶けるフィルムを使うワクチン接種法を開発したと発表した。研究成果は、『Science Advances』誌に2020年3月4日付で発表されている。

研究チームを率いたMaria Croyle教授によると、2007年に米国国立衛生研究所から注射針を使わず常温保存が可能なワクチンの開発依頼を受けたことから研究が始まった。昆虫などのDNAが何百万年も琥珀の中に保存されていたというドキュメンタリー番組からヒントを得て、最初はキャンディーのような形にすることを考えついたという。

しかし、塩や砂糖などの天然成分を使用した調合過程や結晶化の過程で、保存したいウイルスや細菌が死滅してしまうなど苦労は絶えなかった。450回以上ものテストを繰り返し、最終的に剥離可能なフィルム内にウイルスや細菌をそのまま留めておくことができる方法にたどり着いた。

開発された方法では、薄いフィルムは層になっており、溶解するフィルムを土台にして、その上に抗体を固定し、剥離式フィルムで覆って保存する。はしか、ポリオ、インフルエンザ、B型肝炎、エボラ出血熱などのワクチンのほか、感染症やがんの治療に使用される治療用抗体をフィルムの間に挟んで保存できる。

マウスを使った実験では、生インフルエンザウイルスを筋肉注射した場合とフィルムを使って口から投与した場合で比較したところ、フィルムを使った投与では、筋肉注射での結果と同程度の抗体を介した免疫反応を誘発、あるいは、より良好な結果を得たという。

フィルム型ワクチンの製造過程は簡素化しており、製造時間短縮にも取り組んだため、技術的な難しさはなく、半日以下でフィルム型ワクチン製造が可能だという。Croyle教授は、今後2年以内に口から投与できるフィルム型ワクチン技術を市場に投入すべく、スタートアップと協力していると述べている。

このフィルム型ワクチンのもう1つの強みは、常温で保存できることだ。研究者らは、エボラワクチン関連プロジェクトの終了間際に、3年前につくられたウイルスを含んでいるフィルムを見つけ、ふとした思い付きから、そのフィルムを再水和してワクチンが免疫反応を誘発できるか確認した。すると、驚くことにフィルム内のウイルスの95%が活性だったという。これが、フィルム型ワクチン開発の大きな突破口となった。

従来のワクチンはその効力を保つため常に冷蔵しておく必要があり、世界中で利用するには問題が多かったが、フィルム型ワクチンは常温で保存できることから、今後は世界中で、特に発展途上国において広く利用できることが期待される。

さらに、Croyle教授は「世界的な予防接種運動が環境に及ぼす影響について、ほとんど考察されていません。2004年のフィリピンでのはしか根絶運動では、1カ月に1800万人の子供たちに予防接種を行いましたが、注射器や注射針などの医療廃棄物、包装資材や綿棒などのごみが大量に出ました。フィルム型ワクチンでは、輸送に必要なのは封筒だけで、接種後には何も残りません」と環境保護の観点からの利点も強調している。

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