18桁精度の可搬型光格子時計、東京スカイツリーで一般相対性理論を検証

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理化学研究所は2020年4月7日、東京大学と島津製作所と共同で、18桁精度の超高精度な可搬型光格子時計を開発したと発表した。東京スカイツリーの地上階と地上450mの展望台に設置した2台の時計の進み方の違いを測定し、この結果を国土地理院が測定した標高差と比較することで、一般相対性理論を従来の衛星を使った実験に迫る精度で検証したという。

高精度な原子時計は、高精度に同期された時刻を必要とする高速大容量通信や衛星測位など現代社会の基幹技術だ。現在、セシウム原子時計によって国際単位系の1秒が定義され、5千万年に1秒のずれに相当する精度が保たれている。

光格子時計はこの精度を100倍以上改善したもので、次世代の「秒」の定義の有力候補として注目され、世界中で研究が進んでいる。その精度はおよそ百億年に1秒のずれ(18桁の精度)であることから、地上でわずか数cmの高さの違いで、アインシュタインの一般相対性理論から導かれる時間の遅れによる周波数の変化「重力赤方偏移」効果と呼ばれる現象が観測できる。

時計周波数の重力赤方偏移を利用した標高差の計測は、時計の新しい応用「相対論的センシング技術」として注目されている。しかし、高精度な原子時計は実験室内のみで稼働できる複雑な装置となっていた。高精度な原子時計の小型化・可搬化と実験室外でも安定に動作できる堅牢化は、「相対論的センシング技術」の実用化の課題となっていた。

そこで理化学研究所らは今回、実験室で使用していた大型光学定盤上のレーザー装置を含む光学系を集約し、制御系を含めてボックス化。これにより、実験室環境で実現した時計の精度を劣化させることなく、システムの小型化・可搬化を実現し、実験室外の環境でも18桁精度を実現できるような可搬型ストロンチウム光格子時計を開発した。また、長時間安定に動作できるように合計17台のレーザー装置の周波数制御の自動化を図るとともに、インターネット経由で遠隔操作が可能なシステムも構築した。

実験では、可搬型光格子時計を東京スカイツリーの地上階と展望台の2カ所に設置し、約450mの標高差を設定。これらの2台の光格子時計の周波数差を測定し、重力赤方偏移を求めた。一方、GNSS測量、水準測量、レーザー測距などによる標高差測定と相対重力計による重力測定を組み合わせ、2台の時計のおかれた地点間の重力ポテンシャル差(単位質量あたりの位置エネルギー差)も算出。こうして求めた重力赤方偏移と重力ポテンシャル差を比較し、一般相対性理論の検証実験を実施した。

その結果、原子の共鳴スペクトルが450m標高差でおよそ21Hz分ずれていることが観測された。それぞれの時計で、スペクトルのピークに常に共鳴するようにレーザー周波数を制御し、共鳴周波数の差を数日にわたって平均化することで、高精度に時計の周波数差Δνを計測したところ、およそ1週間の平均化によって、展望台の時計が地上階の時計よりも相対周波数がΔν/ν=(4万9337.8±4.3)×10−18だけ高い(時間が早く進んでいる)ことが計測された。その後、2台の時計を理化学研究所に持ち帰り、同じ高さに設置して測定した結果、相対周波数差は(−0.3±4.7)×10−18で、計測に使った時計は18桁の精度で一致していることが検証された。

一方、2台の時計の標高差Δhを、GNSS測量および水準測量とレーザー測距の2つの方法で測定し、相対重力計を使って重力加速度gを測定。この結果から、2台の時計の重力ポテンシャル差gΔh/c=(4万9337.1±1.4)×10−18を取得した。

一般相対論によれば、重力赤方偏移は重力ポテンシャル差に等しくなる。時計で得られた重力赤方偏移と、従来の測定手法によって得られた重力ポテンシャル差を比較し、この予言を(1.4±9.1)×10−5の精度で検証した。この成果は、およそ1万kmの高低差を利用するロケット/人工衛星を使った相対論検証実験に迫る精度だ。従来よりも1万倍高精度な原子時計を使うことで、宇宙実験に比べて1万倍以上少ない高低差で、同等の実験が可能になったということだ。

高精度な可搬型光格子時計を使えば、GNSS測量では検出が困難な数cm精度のプレート運動や火山活動による地殻の上下変動の監視や、数時間から数年という時間スケールで起こる地殻変動(標高変化)を精密に観測できるようになるという。また、GNSSや高感度重力計と補完的に利用できる超高精度な標高差計測・測位システムの確立や、地下資源探査、地下空洞、マグマ溜まりの検出など、光格子時計は将来の社会基盤となる可能性を秘めている。今後、光格子時計の実用化に向けて、さらなる時計の小型化、可搬化が加速され、新たな測地技術への応用が期待される。

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