- 2019-10-17
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- fcc-hcpマルテンサイト変態, カンター合金, ソウル国立大学, ハイエントロピー合金, 固溶体, 形状記憶効果, 熱力学計算, 物質・材料研究機構(NIMS), 研究, 高温用アクチュエータ
物質・材料研究機構(NIMS)は2019年10月16日、ソウル国立大学と共同で、形状記憶効果を示すハイエントロピー合金を開発したと発表した。
ハイエントロピー合金とは、5種類以上の元素を等モル比で混合することで得られる合金を指す。この様な組成の合金では、自由エネルギーの配置のエントロピーが大きくなるため、原子が均一かつ無秩序に分布する固溶体の状態が安定になると予想される。一方、これまでの合金探索では1種類の元素を主要元素とし、それに少量の異種元素を添加した合金がほとんどで、ハイエントロピー合金のような多元系かつ高濃度の組成を持つ合金は探索されていなかった。そのため、これまでにない特性や機能を持つ材料の発見が期待されている。
そこで、研究チームは今回、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)を20%ずつ混合したカンター合金に着目。熱力学計算を行い、組成を少しずつ変化させたときのfcc相とhcp相の安定性を検討した。その結果、NiをCoで置換することでfcc相とhcp相のエネルギー差が小さくなり、また約1000K以上において広い組成範囲でfcc相が安定することを見出した。
この発見から、研究チームは、Cr20Mn20Fe20Co40-xNix(x=0〜40)という一連の合金を作製した。この特性を調べたところ、xが0もしくは5の合金が、可逆的なfcc-hcpマルテンサイト変態を示し、室温で変形させると加熱することで形状記憶効果を示すことを発見した。ハイエントロピー合金では、既存の形状記憶合金とは異なり、合金組成を変えることで幅広い温度範囲で形状を回復できる可能性があるという。
研究チームは今後、形状記憶効果に与える熱処理や加工組織の影響について研究を進めていくという。また、パイプ継ぎ手や高温用アクチュエータなどへの応用を目指すとしている。