原子炉の効果的な安全確認に――MIT、熱や放射線による原子炉の損傷を評価する新手法を開発

米マサチューセッツ工科大学(MIT)を中心とする研究チームが、原子力発電所の定期検査に必要な稼働停止期間よりも短期間で、原子炉構造部材の熱や放射線による劣化状態について検知できる、低コストで簡便な検査方法を考案した。原子力発電所における重要な安全性チェックに必要な時間と費用を顕著に削減することができ、短期的には発電出力を増大させ、長期的には原子力発電所の安全な耐用年数を伸ばすことができると期待している。研究成果が、『Acta Materialia』誌246巻(2023年3月1日号)に公開されている。

温室効果ガス排出を抑制する現実的な方法の1つとして、既存の原子力発電所の耐用寿命を伸ばすという議論があり、日本においても従来の40年から60年に延長する法制化が進められている。耐用年数の延長を実現するには、冷却系統におけるステンレス鋼配管や、中心部の圧力容器内面に肉盛溶接されるステンレス鋼クラッドなど、原子炉に用いられている多くの構造部材の熱や放射線による材質劣化を常時モニタして、危険な脆化や割れなどの損傷を予防することが大切だ。

現在、これらの構造部材の検査には、実際の構造部材の近傍に置かれて同じように熱や放射線の影響を受けるクーポン試験片を取り出して検査するか、または実際の構造部材から小さな試験片を採取して検査するが、いずれも原子炉の定期検査期間中に実施する必要があり、発電休止などに伴って1日あたり数百万ドルの費用を要しているのが現状である。

研究チームは、短期間で構造部材の状態を検査できる手法の開発にチャレンジし、特に圧力容器内面のステンレス鋼クラッド層における材質劣化を、低コストで簡便に検査する手法を考案した。

肉盛溶接ステンレス鋼内部に存在するフェライト相においては、300℃程度に加熱されることによりCr量が高い部分と低い部分に分離する「スピノーダル分解」が起こり、これに起因して衝撃特性が劣化する脆化が生じることが知られている。研究チームは、実験的に準備されたステンレス鋼表面にレーザーパルス光線を照射して表面弾性波(SAW)を発生させ、別のレーザー光線を用いてSAWを非接触測定することによって、スピノーダル分解による脆化を検出できることを見出した。

SAWの周波数スペクトルにおいて、通常は単一の周波数ピークしか現れないが、高温加熱の影響でスピノーダル分解を起こして材質劣化した材料では、2つのピークに分裂することがわかった。明確な二重ピークとスピノーダル分解の相関関係は、統計的に99%の信頼水準を持って確認された。

研究チームは現在、実験で用いた大きなレーザー光学システムに代わり、システム全体を小型化してオンサイトで検査できるポータブルな検査キットを検討しており、シンプルで安価な検査を高頻度で行うことによって、安全を犠牲にすることなく原子力発電所の稼働期間をあと数十年延長することができる、と期待している。

関連情報

A new way to assess radiation damage in reactors | MIT News | Massachusetts Institute of Technology

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