偽造不可能な光認証デバイスを開発――光の照射により発光特性の切り替えが可能な分子で作製

筑波大学は2020年5月22日、ジアリールエテン分子の自己組織化によってマイクロ球体光共振器を作製し、球体内部への光閉じ込めによる 「ささやきの回廊(Whispering Gallery Mode:WGM)共鳴発光」のスイッチングを実現したと発表した。これにより、2次元情報(QRコード)とスペクトル情報の2段階の認証による実質的に偽造不可能な光認証デバイスを構築したという。

WGMは光が円形の共振器中に閉じ込められて周回するモードで、そのスペクトル波形は、共振器のサイズや形状、材質により敏感に変化する。研究では、共振器の材料として、発光特性がスイッチ可能な酸化型ジアリールエテン(DAE)を用いた。DAEは、開環状態ではほとんど発光しないが、紫外線を照射すると閉環状態へと化学構造が変化し、黄色の発光を示す。これに可視光を照射すると、開環状態に戻って発光が消えるため、発光オン/オフのスイッチを繰り返すことができる。

研究では、DAE分子を溶液中で自己組織化させ、粒径が数μmの球体を形成。この閉環状態のDAEからなるマイクロ球体を光励起すると、黄色の発光が観測された。続いて、可視光を照射し、開環状態へ変化させると発光は観測されず、紫外光/可視光の照射による発光状態のスイッチが可能であることが確認された。さらに、マイクロ球体1粒子のみを光励起した時の発光スペクトルを観測したところ、この粒子は明確なWGMパターンを示し、実際に光が球体内部に閉じ込められて、WGMが発生していることが明らかになった。この粒子に可視光を照射し続けると、WGM発光はほぼ消失し、粒子ごとに発光/消光のスイッチができる。

今回の実験で用いた表面自己組織化の手法では、基板表面にあらかじめ親水疎水のマイクロパターンを形成。その上にDAE溶液を滴下して薄膜を形成し、溶媒蒸気アニール処理を行うと、約5ミクロン周期でDAEのマイクロディスクアレイが自発的に形成される。この開環状態のDAEマイクロディスクアレイに紫外線を照射することで、アレイ全体及び局所的に発光状態に変化させることができる。この発光/消光のスイッチを利用し、マイクロスケールの蛍光ピクセルの描画にも成功した。

さらに、自己組織化条件を最適化することで、半球状のマイクロ構造を持つアレイの形成も確認された。この半球体内部では光の閉じ込めが起こり、各ピクセルはWGM共振器として機能するが、それぞれに大きさや形状が微妙に異なるため、全ての共振器が異なるWGMパターンを示した。つまり、構造のばらつきによる光共振器特性の違いを物理複製困難関数(PUF)として利用できることが示された。

例えば、開環状態のDAE半球体アレイに対し、フォトマスクを用いて紫外線を特定の部位に照射しマイクロメートル分解能の絵を描画すると、一見同じに見える絵画であっても、スペクトルパターンの違いにより個々の絵を識別することが可能になる。すなわち、スペクトルパターンも含め、全く同じものを複製することは事実上、不可能となる。

研究者たちは、光共振器にPUFを適用することで、新しい光認証デバイスを提案。この手法を応用して、2次元の発光ON/OFFパターンの識別(マイクロQRコード)と、各ピクセルのWGM指紋パターンの識別(スペクトル)との2ステップの認証を行うことで、偽造、複製が実質的に不可能な光認証デバイスを構築できるという。また、データ(発光状態)の消去には長時間の光照射が必要なため、一度書き込むことで長期間データを保持できる光書き込みメモリーとしての応用も期待できるとしている。

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