機械学習で最適なナノ多層構造を設計、作製、評価――熱伝導率の最小化へ 東京大学

東京大学と科学技術振興機構(JST)は2020年6月3日、半導体材料の熱伝導率を内部のナノ構造によって低減することを目的に、最適なナノ多層構造を設計し、作製、評価することで熱伝導率の最小化に成功したと発表した。ナノ多層構造の設計、作製、評価については、機械学習と分子シミュレーションを組み合わせたマテリアルズ・インフォマティクス(MI)を用いたという。

半導体や絶縁体の結晶の熱伝導は結晶格子の振動が伝わることによって生じるが、その格子振動はフォノンと呼ばれる。フォノンの波動性を利用した熱伝導制御は、十分にフォノンの波動的な性質を活用する最適な超格子構造を設計することが重要な課題で、膨大な数の候補構造から最適となる多くの自由度を持つナノ構造を探し出す必要がある。

これには機械学習などを使った新しい方法が必要になるため、研究グループは2017年にMIにより、熱伝導率を最小あるいは最大にする最適構造を設計する手法を開発した。しかし、この手法は実験による実証ができておらず、ナノスケールにおける構造の作製と物性の計測に基づく最適構造の設計が望まれていた。

そこで研究グループは、MIによるナノ構造の熱伝導率の最低化の実証のほか、フォノンの波動性を最大限に生かしたナノ構造の同定とメカニズムの解明を進めた。材料系にガリウムヒ素(GaAs)とアルミニウムヒ素(AlAs)の組み合わせを採用し、まず原子グリーン関数法によるフォノンの波動的輸送計算と、ベイズ最適化手法による機械学習とを交互に組み合わせ、熱伝導を最小化する最適化された非周期的超格子を設計した。

次に、設計した最適構造を分子線エピタキシー法によって実際に作製し、熱伝導率の温度依存性を時間領域サーモリフレクタンス法で計測。実験の結果、設計通りの熱伝導率と温度依存性が得られ、この手法による非周期超格子構造と熱伝導物性の最適化を実証した。

発表によると、最適な非周期的超格子の熱伝導率は従来の周期的超格子よりも大幅に小さくなった。メカニズムの解明を進めていくと、非周期的超格子の各部位が特定の周波数のフォノンを干渉させ、伝搬を遮断していることが明らかになった。最適非周期構造は、影響する周波数の異なるさまざまな局所的な構造をつなぎ合わせたものだということが分かった。これは、干渉などのフォノンの波動的な性質を利用してはじめて実現される。

研究では、半導体超格子構造をモデル材料として、熱伝導率の制御を目的とした設計、作製、評価、機構解明でのMI手法の有効性が実証された。今後、さまざまな材料系へのMI手法の応用、熱電変換材料など電気伝導率や機械的特性を維持しながら熱伝導率を低減できる熱機能材料の開発に役立つことが期待できる。

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