リチウムイオン電池電極に析出した金属リチウム、ミュオンで非破壊的に検出 大阪大学ら

大阪大学は2020年6月16日、高エネルギー加速器研究機構(KEK)物質構造科学研究所のミュオン研究グループ、豊田中央研究所、国際基督教大学、総合科学研究機構と共同で、大強度陽子加速器施設(J-PARC)物質・生命科学実験施設(MLF)ミュオン科学研究施設(MUSE)Dラインの負ミュオンビームを用い、リチウムイオン電池に用いられる黒鉛負極に析出した金属リチウムの非破壊検出に成功したと発表した。

近年、使用済みのリチウムイオン電池の再利用が検討されているが、安全で効率的な再利用のためにはリチウムイオン電池の内部を非破壊で把握することが必要だ。なぜなら、電池の使用条件によっては、イオンで存在するはずのリチウムが還元されて金属として析出し、それが、電極間の短絡、電解液との熱反応、容量低下につながることが知られているからだ。一度析出した金属リチウムは容易にはイオンに戻らないため、リチウムイオン電池の再利用において、金属リチウム析出の有無の確認は重要事項とされる。

非破壊での元素分析には、試料にX線を照射した際に検出される元素固有の蛍光X線のエネルギーを分析する方法が用いられる。しかし、リチウムのような軽元素の蛍光X線はエネルギーが低く、容器を透過させて検出することが不可能だ。ミュオン特性X線のエネルギーは蛍光X線のエネルギーより約200倍も高く、リチウムでは18.7keVだ。リチウムのミュオン特性X線は、市販のアルミラミネートシートを使ったリチウムイオン電池の筐体を、ほぼ減衰することなく通過できる。

KEKのミュオン研究グループは、リチウムイオン電池内のリチウムのミュオン特性X線を高感度で検出するためのシステムを開発した。さらに、リチウムイオン電池のような数十μm厚の電極が層状に重なる構造を持つ試料を測定するには、低運動量の大強度負ミュオンビームが必要なことから、独自の開発を進めた。その結果、J-PARC MLF MUSE Dラインは、リチウムイオン電池のミュオン特性X線元素分析ができるような実験施設へと発展した。実験施設では、負ミュオンの運動量を変化させ、数十μm厚のリチウムイオン電池電極を、容器の外側からダメージなく分析できる。

実験では、あらかじめ金属リチウムを析出させた黒鉛負極試料を用い、金属リチウムと充電された電極中のリチウムイオンとで、負ミュオンの捕獲率が異なり、両者のリチウム1原子当たりの検出感度が大きく異なることを見出した。黒鉛負極中のリチウムイオンの量は電池の充電状態から分かるので、得られるミュオン特性X線の強度のうち、金属リチウムに由来する信号強度のみを捉えることができる。このようにして、電極に析出した金属リチウムを、黒鉛負極中のリチウムイオンと区別して検出した。

さらに、黒鉛負極の片側に金属リチウムを析出させた試料を裏返しにして、充電した黒鉛負極と重ね、析出深さを変えた試料を作成し実験した。ミュオンの停止位置を制御することで、リチウムイオン電池の厚み方向において金属リチウム析出の位置を検知できることを実証した。

実用の電池は電解液や被膜などを含むが、本研究では金属リチウムを析出させた電極を取り出し、ラミネートで包んで試料として分析した。0.1mm厚以上の鉄等の金属容器に入った電池の分析は原理的に困難だが、ラミネート型の実用リチウムイオン電池では、金属リチウム析出が検出可能だと考察される。

リチウムイオン電池内の金属リチウムの非破壊検出技術は、金属リチウム析出と密接に関係する電池容量の劣化の調査に応用ができる。さらに将来の飛躍的なミュオン強度の増強や、検出器の改良により、ミュオン特性X線元素分析によるその場解析も可能になることが期待できる。

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