電気化学反応における量子-古典転移現象を発見――量子トンネル効果を利用した高効率なエネルギー変換機構の開発に期待

(A) 量子トンネルプロトン移動(B) 遷移状態を乗り越えるプロトン移動

物質・材料研究機構(NIMS)は2018年12月11日、北海道大学との共同研究で、電気化学反応におけるプロトン移動が特定の条件下では、量子トンネル効果に支配されていることを発見したと発表した。さらに、この量子的過程は電位によって半古典的過程に切り替わることから、電気化学的プロトン移動における量子-古典転移という現象が今回初めて観測された。

現在、電気化学エネルギー変換反応の飛躍的な高効率化やエネルギー密度などの特性向上を可能にする技術の確立や、それを基盤としたエネルギーデバイスの開発が求められている。半導体を用いるエレクトロニクスや近年注目集めているスピントロニクスを含めて、現代の多くのデバイス技術には量子力学に立脚した技術が用いられている。

一方で、電気化学反応における量子効果を検討した最初の報告は1931年に発表されているものの、他の分野と比較して電気化学では、量子力学にもとづく反応機構の理解はあまり進んでいない。特に、固液界面で進行する電極過程は、溶媒和や隣接イオンの効果など系が複雑なうえ、複数の電子とプロトンが移動する反応で解析が難しいため、同反応における量子電極過程の研究は発展途上にある。

今回の研究では、電気化学的エネルギー変換過程における量子効果の有無を調べるため、白金電極を用いて、典型的なエネルギー変換反応で燃料電池の鍵となる酸素還元反応(ORR)における速度論的同位体効果を解析した。速度論的同位体効果は、ある化学反応において、特定の原子をその同位体で置き換えることによって生じる反応速度の変化のことで、反応の微視的機構の検討に用いられる。

具体的には、重水系と軽水系でORRを解析し、律速過程における速度定数比(KH/D)の過電圧(η)依存性を測定した。KH/Dの値によって、反応の律速過程へのプロトン移動の関与の有無が分かる。加えて、速度論的同位体効果を解析することで、古典的に遷移状態を乗り越えるプロトン移動と量子トンネル効果によるプロトン移動のどちらが起こっているかを判別した。

その結果、反応の活性化に重要な過電圧が低い条件ではORRのプロトン移動機構は、量子トンネル効果が支配していることが判明した。一方、過電圧が大きくなると、反応機構は古典的な遷移状態理論に従ったプロトン移動が支配的になった。このことは、電気化学反応における量子-古典転移現象という新しい物理過程であることを表している。

さらに、研究グループは既存のプロトンの量子トンネル効果を解析する理論を発展させ、電気化学的なプロトン移動過程におけるポテンシャルの効果を初歩的に検討できるようにした。その結果、理論的にも、おおまかに実験結果を再現することに成功した。

今回の研究によって、電気化学反応におけるプロトン移動に量子効果が大きく関わっていることが初めて示された。今後は、量子的なプロトン移動過程の詳細を明らかにするため、実験的な解析をさらに進める必要があるという。そしてその結果、従来の古典的な制約条件に縛られずに、量子力学を指導原理とする高効率な電気化学的エネルギー変換を可能にする技術開発の進展が期待できるとしている。

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