- 2020-9-7
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- Deepwater Horizon石油掘削施設, アブドラ国王科学技術大学(KAUST), エレクトロスピニング電界紡糸技術, ナノポリマー繊維, フッ素化ポリイミドPIMナノ繊維, マイクロポロシティ(細孔), マイクロポーラス有機材料, 固有微多孔性ポリマー(PIM), 多孔質オイル吸着マット, 学術
サウジアラビアのアブドラ国王科学技術大学(KAUST)の研究チームが、自重の25倍の流出オイルを吸着でき、リサイクルや再使用も可能な多孔質オイル吸着マットを開発した。マイクロポロシティ(細孔)を内在するナノポリマー繊維から構成され、海面上に流出した原油やガソリンなどを迅速かつ効率的に吸着できるとともに、リサイクルや再使用が可能という、これまでになかった特徴を有する。世界的に頻発する海洋オイル流出事故から、海洋生態系および人間の健康と安全を守る、新しい画期的なツールになると期待される。研究成果が、『Environmental Science: Nano』誌の2020年5月号に公開されている。
2010年のメキシコ湾におけるDeepwater Horizon石油掘削施設における事故など、度重なる大規模なオイル流出事故に対して、様々な材料を用いたオイル吸着マットが開発され使用されてきたが、効率性と容量に関して必ずしも充分な性能が得られてないのが現状だ。
今回KAUSTの研究チームは、吸着容量の限界を決定する因子として、吸着に関与する表面積が最も重要と考え、高分子配位構造中にあるナノレベルの細孔による大きな表面積を内在する固有微多孔性ポリマー(PIM)に着目した。マイクロポーラス有機材料の1つであるPIMは、ガス吸着やガス分離、触媒などの分野で応用が期待されている。
研究チームは、エレクトロスピニング電界紡糸技術によって、融液に電圧をかけてノズルから射出することにより、極めて多孔質のフッ素化ポリイミドPIMナノ繊維を創製。これを成形することで、オイル吸着マットとすることに成功した。この吸着マットの第1の特徴は、ポリマーのナノ繊維構造内に、マクロレベル、メゾレベル、ナノレベルの階層的なポロシティのネットワークが導入されており、創出される表面積は1gあたり565m2と非常に大きく、流出オイルの吸着に適していることだ。第2の特徴は、疎水性のトリフルオロメチル基分子が加えられ、オイルなどの非極性溶材を強く吸い取る一方、水を排除する働きをすることだ。その結果、更にオイル吸着性を高めることができる。
原油やガソリンなどのオイルおよびメタキシレンなどの非極性溶材を用いたラボ試験では、これらを迅速かつ効率的に除去することができた。数分以内に、1gあたり25g以上のオイルまたは非極性溶材を吸着する能力が確認された。即ち、自重の25倍以上のオイルを吸着しており、従来のマット材料よりも格段に効率的であることが判った。更に、開発したマットは、機械的処理を通じてリサイクル可能であり、トルエンでリンスした後に真空処理すれば、再使用も可能だという。
研究チームは、現在、マイクロ有機物、重金属などの多様な汚染物質を目標として、吸着剤を最適化する研究を実施している。更に、簡単に回収し再使用できる、メンブレン状および繊維状スポンジの開発も行っている。