コロナ禍で仕事の進め方を再考する機会も増えたことで、旅先で休暇を楽しみつつ働くワーケーションや、大都市を離れ地方からのリモートワークに注目が高まっている。これまでと違う環境の中で、「あっ!」と驚くアイデアが浮かぶかもと期待する人も多いだろう。米オハイオ州立大学の研究によれば、確かに、多くの発明は郊外で生まれているが、それまでの常識を超えた素晴らしい発明になると、都心で生まれる傾向にあるという。
ここでいう常識を超えた発明、または“型破りな”発明とは、データストレージと音楽が融合したiPodのような音楽プレーヤーや、掃除とコンピューターが融合したルンバのようなロボット掃除機に代表される、異なる技術分野を組み合わせたものを指す。
研究チームは、発明の種類と人口密度の関係に着目し、2002年1月から2014年8月までに取得された100万件以上の米国特許と、米国特許商標庁からの詳しい地理データを使って、その特許がどこで生まれたかを分析した。また、異業種分野の特許を引用している場合に“型破りな”発明と分類した。
その結果、かなり多くの特許が、大都市圏の中でも人口密度が少ない郊外で生まれていたが、都市部も郊外とは違う意味で優れた役割を果たしていることが分かった。「人口密度は、発明の数というよりは、その種類において重要な役割をする」と、Enrico Berkesポスドク研究員は語る。
例えば、多くの特許を取得しているIBMやMicrosoftといった大企業は、大都市の郊外に広大なオフィスパークを構え、研究を進める傾向がある。「これら企業は、ミーティングやコンファレンスといった正式な形で、研究員の専門性を利用したり、共同研究したりと、知識を融合する機会に恵まれている」と、郊外で特許が多く生まれる理由を示唆している。
しかし、そうした環境では他の科学分野からアイデアを引き出すことは難しく、その点で都市部の方が優れているとBerkes氏は指摘する。レストランや美術館、文化イベントといった場所での、様々な分野の人との偶然の出会いと交流が、型破りなアイデアの発現につながる可能性があるとしている。
この結果は、スタートアップ企業を1カ所に集めたテクノパークの構成にも役立ちそうだ。テクノパークが成功するには、異なる企業の人々が定期的に交流し、アイデアを共有しやすい環境が必要だとしている。
調査結果は、2020年9月7日付けの『Economic Journal』に公開されている。