高い強度と成型性を持つ新しい生分解性ゲル材料を開発――凍らせて、混ぜて、溶かすだけ

日本原子力研究開発機構は2020年10月30日、東京都立産業技術研究センターや東京大学と共同で、中性子線を利用して明らかにした高分子-水の構造研究に関する知見を活かして、セルロースナノファイバーとクエン酸、そして水から構成される高強度ゲル材料「凍結架橋セルロースナノファイバーゲル」の開発に成功したと発表した。

一般的にセルロースなどの天然由来の素材からだけでは、さまざまな用途に耐える丈夫な材料を作製することは困難で、プラスチックや金属などの無機物と複合させて材料の強度を向上させる手法が用いられてきた。しかし、これらの手法で得られた材料は、環境中で完全に分解できず、プラスチック由来の環境問題への課題となっていた。

セルロースナノファイバーの一種であるカルボキシメチルセルロース(CMC)ナノファイバーは、食品添加剤としても利用されている安全性の高い素材だ。分子中に反応性が高いカルボキシル基を持つため、他の物質と反応させてゲルやフィルムを作製できる。例えば、同じくカルボキシル基を持つクエン酸と混ぜ合わせると、水素結合を介してゲルを形成する。しかし室温では、水中で混ざり合ったCMCナノファイバーとクエン酸が反応すると、不均一な構造を形成し、持ち上げただけでも壊れてしまうほど強度が弱いという問題があった。

そこで研究者らは、物質の強度の向上にはミクロなレベルで構造制御することが必要と考え、水の凍結時に生じる物質の凝集挙動に着目。凍結時に出現する凝縮構造を利用して、ゲルのミクロ構造の制御ができると考えた。

研究者らは、CMCナノファイバーとクエン酸を用いて実験を進め、-20℃の環境で凍結させたCMCナノファイバー溶液にクエン酸溶液を混ぜて、-4℃の環境で溶かした。その結果、氷が溶けると同時に、白く不透明なハイドロゲル(凍結架橋セルロースナノファイバーゲル)が形成された。作製した凍結架橋セルロースナノファイバーゲルの保水性を調べたところ、全体の重さの約95%もの水をゲル内部に含んでいることが判明した。

次に、凍結架橋セルロースナノファイバーゲルの強度を調べるために、圧縮強度を測定した。これにより、圧縮負荷をかけると、水を放出しながら10分の1以下の厚みにつぶれるほどの柔らかさを持ちつつ、圧縮負荷を除荷すると同時に再び吸水して元通りの形状に戻る高い復元性が示された。さらに、この高い復元性について調べたところ、2トンの圧縮負荷にも壊れない高い復元性が明らかになった。

走査型電子顕微鏡を使って凍結架橋セルロースナノファイバーゲルのミクロ構造を調べ、強度発現メカニズムを探ったところ、薄い壁に囲まれた数百μmの細孔構造が観察された。溶液の凍結時に、氷の周囲に凝集したCMCナノファイバー溶液とクエン酸が反応した結果、水素結合による強固な三次元ネットワーク構造を形成し、高強度なゲルになったことが推定される。一方、凍らせずにCMCナノファイバー溶液とクエン酸を混ぜて作製したゲルには細孔はほとんど観察されず、持ち上げただけで壊れてしまう弱さだった。この観察から、凍結工程により材料の強度が飛躍的に向上することが判明した。

さらに研究者らは、凍結架橋セルロースナノファイバーゲルの応用可能性の一つとして、汚染水から有害物質を回収する吸着剤としての性能を調べた。合成色素を含む溶液に作製したゲルを入れたところ、数分でほとんど全ての色素をゲルが吸着して、透明な水を得ることができ、環境を浄化する吸着剤として凍結架橋セルロースナノファイバーゲルが有用である可能性が高いことが示された。

開発された生分解性ゲル材料は、従来にはない強度と吸着性能を活かすことで、プラスチック代替材としての緩衝材やソフトロボット材料のほか、吸着剤としての環境浄化材料などへの応用が期待される。また、型に入れて凍らせることでさまざまな三次元形状に成型可能なことから、丈夫で微細に三次元成型したゲル材料を再生医療材料に応用することも見込まれる。

関連リンク

プレスリリース

関連記事

アーカイブ

fabcross
meitec
next
メルマガ登録
ページ上部へ戻る