音速の上限を実験データと量子計算から求めることに成功

英ロンドン大学クイーン・メアリーは、2020年10月9日、英ケンブリッジ大学、ロシア科学アカデミー高圧物理学研究所と共同で、多くの実験データを用いた検証と原子状水素の第一原理計算によって理論的な音速の上限値を求めることに成功したと発表した。研究から導き出された音速の上限は秒速約36kmで、世界で最も硬い物質として知られているダイヤモンド内部における音速の約2倍だという。研究成果は『Science Advances』に2020年10月9日付で発表されている。

音波は、通過する媒体によって移動する速度が変わることが知られている。例えば、音波が固体を通過するときの移動速度は液体や気体を通過するときよりも速い。身近な例では、列車が近づいてくるとき、空気を介して伝わってくる音よりも線路に耳を当てて聞こえてくる音のほうが早く伝わってくるという現象がある。

アインシュタインの特殊相対性理論では、波として伝播する光の速度、すなわち秒速約30万kmが絶対速度の限界として設定されている。しかし、音波については、固体や液体を通過する速度に上限があるかどうかはこれまで明らかになっていなかったという。

今回、研究者らは、微細構造定数と陽子電子質量比という2つの無次元の基礎定数から、凝縮系を通過する音速の上限値を予測できることを見出した。この2つの基礎定数は宇宙を理解する上で重要な役割を果たすことが知られており、星で起こる核合成のような核反応を規定している。この関係式は、音速Vu、光速c、微細構造定数α、電子質量me、陽子質量mpを用いて、Vu/c = α(me/2mp)1/2と表される。

研究者らは、この2つの基礎定数から理論的に予測される最も早い音速を検証した。関係式が示すように、音速は原子の質量とともに減少するかを調べ、最も音速が速くなると予測される固体の原子状水素に注目した。しかし、水素は100万気圧を超える超高圧下でしか原子固体とならず、そのような圧力下で水素は銅のように電気を通す金属固体となり、室温超伝導体になるということも予測されている。そこで、予測の検証に最先端の量子力学計算を用いたところ、固体の原子状水素内では音速がほぼ本質的な限界値になることを発見した。

固体中の音波を理解することは、地球内深部で起きる地震によって発生する音波を利用する地震学や、音波が深く関連する弾性特性の研究をする材料学など、多岐に渡る科学分野で非常に重要だという。凝縮系での音速の上限値を予測する今回の研究結果は、高温超伝導、クォークグルーオンプラズマ(QGP)、さらにはブラックホール物理学などに関連する粘性や熱伝導率といったさまざまな特性の限界を理解するのにも役立つと研究者らは語っている。

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