AIにより「高エントロピーHEA合金」の構成祖を予測――新たな合金開発プロセスを加速

新しいカテゴリーの金属として注目されている高エントロピー合金HEAについて、その構成相をAIによって予測する手法が開発された。

3種以上の元素が主要元素として同程度に混合され、耐熱性や耐摩耗性、耐食性などに優れ、新しいカテゴリーの金属として注目されているのが、「高エントロピー合金HEA」だ。そのHEA合金の構成相をAIによって予測する手法を、韓国の浦項工科大学POSTECの研究チームが開発した。基本となるディープニューラルネットワークを構築し、敵対的生成ネットワークによってデータ数を追加的に発生させて、HEA合金の構成相を93.17%という高精度で予測することに成功した。合金開発に必要な時間とコストを顕著に削減でき、将来的に新しいHEA合金の開発も期待される。研究成果は、『Materials and Design』誌の2021年1月号に公開される予定だ。

これまで歴史上主要な役割を果たしてきた材料の中心は、単一の基本元素に少量の他元素を加えた合金系だ。主な例として、主要元素の鉄に少量の炭素などを加えて高強度を得ている鉄鋼や、シリコンに微量のドーピング不純物を添加することによって半導体を実現しているシリコン半導体などがある。

それに対して、3種以上の元素が主要元素として同程度に混合される高エントロピー合金HEAが、新しいカテゴリーの金属として注目を集めている。HEAの特徴は、多元素の固溶強化を強化メカニズムとしていることで、微小亀裂などが形成し難く、高強度と高延性や高靭性を両立するとともに、耐熱性や耐摩耗性、耐食性などを発現することだ。しかし、HEA合金における元素の組合せは理論的には無数にあり、トライエンドエラーを基本とする合金設計手法は多大な時間と研究費が必要だ。特性発現の基本となる、結晶構造の異なる相の構成をあらかじめ予測することも、非常に困難だ。

そこで研究チームは、AIを使って構成相を予測するモデルを開発することにチャレンジした。HEA合金は、高強度を発揮する固溶体(SS)相、多様な機能性発現の可能性を秘める金属間化合物(IM)相、そしてSS とIM の混合(SS+IM)相、更には弾性や耐食性を有するアモルファス(AM)相という、4種類の構成相をもつ。

モデル開発にあたって研究チームは、構成相に関する989サンプルデータを基本として、最適モデル構築、精度向上に必要な追加データの生成、パラメータ解析によるブラックボックス解釈の3つの観点から検討した。基本モデルとして、訓練データ以外にも適合する正則化ディープニューラルネットワークを最適化し、次に条件付き敵対的生成ネットワークで追加的データを発生させるデータ拡張モデルを構築した。最後に、特定相を創成するためにキーとなる設計パラメータの寄与を解析して、ディープラーニングによるブラックボックスの解釈可能性を高めた。

これにより、HEA合金における構成相の予測を、93.17%の精度で達成した。「AIを導入することによって、最適な構成相を得る設計パラメータを明確化でき、新しいHEA合金の創成を加速できる」と、研究チームは期待する。

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