軽量で優れた磁性材料を開発――密度はフェライトの1/4

密度がフェライト磁石の約1/4の、極めて軽量で高い保持力を持つ磁性材料が開発された。

フランスのポールパスカル研究センターとフィンランドのユヴァスキュラ大学の国際研究チームが、有機ラジカルと常磁性金属イオンから合成される金属有機構造体により、極めて軽量で高い保持力を持つ磁性材料を開発した。比較的シンプルなプロセスで安価に製造できるうえ、密度がフェライト磁石の約1/4と軽量で、スマートフォンや衛星など特に軽量化が課題になる分野で、磁気電子工学、磁気センサー、記憶媒体などに応用できる可能性があると期待される。研究成果が、2020年10月30日の『Science』誌に公開されている。

磁性材料は、永久磁石および軟磁性用途の両方で日常生活に不可欠であり、電化製品や電気自動車、コンピューターなど、広範な電子デバイスに使われている。磁性材料の大半は金属元素または希土類金属で構成され、これら無機系磁性材料の世界市場規模は2019年で約2兆円、2025年までに約2兆9000億円に達すると予想されている。

ボルドー大学のRodolphe Clerac博士が指導する国際研究チームは、これら無機系磁性材料について、構成元素の資源入手に制約があること、製造するのに多大なエネルギーを消費すること、そして主要磁性材料であるフェライトは密度が5g/cm3以上と比較的重いことなど、解決すべき課題があると考えている。

今回研究チームは、資源豊富な金属イオンと安価な有機配位子から構成される金属有機構造体を活用して、安価に製造できる軽量磁性材料の開発にチャレンジした。金属有機構造体は、金属イオンと有機架橋配位子の配位結合を経て合成される結晶性材料だ。3次元的にミクロポーラスを有する多孔性材料で軽量かつ高い比表面積を持ち、ガス貯蔵材料、吸着分離用担体、不均一系触媒などへの応用が注目されている。

研究チームは、常磁性で電子スピンを持つ金属Crイオンと、芳香族化合物アミンの1種で不対電子スピンを持つピラジンC4H4N2を用いて、配位結合ネットワークを合成した結果、非常に強い磁気相互作用を生じ、フェリ磁性を持つ金属有機構造体を得ることに成功した。この磁性材料は、常温で最大7500Oeの保持力を有することから記憶媒体としての可能性があり、また密度が約1.2g/cm3と、フェライト磁石の約1/4の重量しかない。更に、金属有機構造体の弱点である熱的安定性についても、最高242℃の高温動作温度を示し、また合成プロセスは比較的シンプルで製造コストが低く抑えられるとしている。

「この軽量金属有機構造体磁性材料の開発により、保持力と動作温度に対する新しい基準を達成し、従来の磁性材料を補完あるいは競合する磁性材料の新分野を開拓できた。この材料の合成手法は、他の物質系に対しても広く適用できるため、将来的に更に性能向上が期待できるだろう」と、研究チームは期待を明らかにしている。

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