東大、安価なシリカコーティング技術を開発――紙をプラスチックの代わりに

東京大学は2020年12月18日、高い耐水性と適度な強度を紙に付与する安価で簡便なシリカコーティング技術「超越コーティング技術」を開発したと発表した。

近年、多量のプラスチック製品使用に伴うゴミの増加による環境破壊が急速に進んでおり、大きな社会問題となっている。プラスチックは化学的に安定で優れた機械的特性を有するが、自然に分解されにくい。そこで、プラスチックに代わる生分解性材料の開発が進められている。

そこで開発されたのが超越コーティング技術だ。これは、最小限の水と触媒により、室温または低温で短時間にコーティング反応が進行する。また、安価なコーティング剤を簡便な方法で紙に塗布することにより、セルロース繊維表面に均一なシリカ皮膜を形成できる。コーティング皮膜は適度な撥水性と柔軟性を持ち、紙から剥離しにくく、コーティング紙は生体に無害であり、環境中で自然に分解して汚染源とならない。

超越コーティング技術は、ゾルゲル法を応用したものだ。メチルトリメトキシシランを主成分とし、少量のチタンテトラプロポキシドなどを反応促進剤として含む低粘性のコーティング液剤を用いている。コピー紙や和紙をこのコーティング液剤に浸した後に常温で30分程度乾燥させると、紙を構成する複雑に絡み合った数十ミクロン径のセルロースファイバー表面に、3ミクロン程度の厚さをもつシリカ層が均一に形成される。紙を構成するセルロースファイバー上にシリカ皮膜が形成される反応は、紙に吸着されたわずかな水や大気中の水蒸気を用いて、チタンテトラプロポキシドの助けにより自発的に素早く進行するため、反応中に紙が劣化しない。

形成されたシリカ層は強固なSiーOーSiのシロキサン結合からなるネットワークを持ち、セルロースファイバーに強く化学結合するため、紙の機械的強度が増大する。一方、そのシロキサンネットワーク中には比較的大きなナノサイズの隙間が存在するため構造変形が容易に起こり、紙本来の柔軟さは損なわれない。また、シリカ皮膜は無色透明であり、コーティング紙は元の風合いを保つ。さらに、シロキサンネットワーク中のナノ隙間には多くのメチル基が残されるため、コーティング紙はよい撥水性を獲得する。

コーティングされた紙製品は光沢を持ち、表面は撥水性を獲得する。コーティングされた紙ストローは3日間水中に浸けても全く形状/強度に変化はなかった。また、コーティングによる紙の機械的強度増大も紙飛行機実験で実証された。コーティングを施したシャトル型紙飛行機を用いて空洞実験を実施したところ、マッハ7の風速でもその形状が保たれたという。

なお、コーティング技術は良好な耐候性を示しており、木材にも適用できる。さらに、コーティング層には多くのナノ空隙が含まれるため、触媒や化学物質を添加でき、基材の特性を損なわずに用途に応じてさまざまな機能性を持たせることも可能だ。

開発されたコーティング技術は、生活素材から工業製品、水に強い段ボール紙、焼却可能なマルチシートなどの農業分野、廃棄可能なシャーレなどの医療分野を含むさまざまな分野に有用だ。また、単純な浸漬法だけでなく簡便な塗布法が使えることから低コストで、紙素材だけでなく紙製品においてもその形状を損なうことなく塗工処理できるという。

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