京都大学、ロジウムを凌駕する排ガス浄化作用を持つ高耐久な多元素ナノ合金を開発

京都大学は2021年3月10日、信州大学、名古屋大学、九州大学と共同で、自動車排ガス浄化に対して最も高い性能を持つとされるロジウム(Rh)を凌駕する高耐久な多元素ナノ合金触媒の開発に成功したと発表した。

研究グループは、パラジウム(Pd)とルテニウム(Ru)を原子レベルで混ぜたPdRuの開発にすでに成功しており、自動車排ガスの主成分である窒素酸化物(NOx)の浄化に対する触媒活性でRhを凌駕することを発見していた。今回の研究では、これにイリジウム(Ir)を加えたPdRuIrナノ合金の開発に成功し、それがPdRuやRhよりも高活性で高耐久であることを見出したという。

Rhは極めて高いNOx浄化性能を持つため、自動車産業に欠かせない元素となっている。だが、昨今の世界的な自動車排ガスの規制強化のため、稀少なRhの需要が非常に高まり、価格が著しく高騰している。このような背景の下、より安価でRhに匹敵する性能を持つ新しい物質の開発が強く求められている。

そこで研究グループが開発したのが、Rhよりも資源量が豊富なPdとRuを原始レベルで混ぜ固溶化したPdRuだ。しかし、その後の研究で、PdRu二元系ナノ合金は元々原子レベルでは混ざらない組み合わせのため、高温に曝される三元触媒反応では原子の拡散が著しくなり、次第に固溶構造が崩れて活性劣化を引き起こすことが判明した。

この問題を解決するため、研究者らは高温で固溶構造の安定化を狙ってナノ合金を多元素することに取り組み、PdRuナノ合金に第3の元素としてイリジウム(Ir)、Rh、白金(Pt)、銀(Ag)、金(Au)を加えたPdRuM(M=第3の元素)ナノ合金の開発を試みた。

PdRuMナノ合金の合成に利用したのは非平衡化学的還元法だ。各金属イオンを含んだ溶液を、十分に加熱された還元剤溶液に徐々に噴霧し、非平衡状態で3種の金属イオンを瞬間的に同時に還元。還元により生成した各原子が溶液内で凝集する過程を保護剤で抑制し、ナノサイズの合金粒子を合成した。

その結果、多数のPdRuMナノ合金が作られたが、その中でPdRuIrナノ合金が、PdRuやRhよりも高活性で高耐久性であることが見出された。低温領域の活性が高いことも判明。PdRuMナノ合金の固溶体構造が第3元素による配置のエントロピーの増大によって高温領域で安定化されることが分かり、PdRuIrの場合ではPdRuと比較すると900℃も固溶構造の安定化温度を低下させることが明らかになった。固溶体構造が安定化したことで、PdRuIrナノ合金触媒は20回触媒試験を繰り返しても全く活性が落ちなかった。

PdRuIrはPd、Ru、Irを1:1:1で合成したものだが、Rhの約10%の価格となり、9割のコスト削減につながる。研究者らは、フルヤ金属と量産化技術に関して共同開発を進めており、すでに大量生産に向けたフロー型合成装置のパイロット機を導入し、1nm級のナノ合金の安定量産化にも成功している。今後は理論研究やインフォマティクスの活用などにより、高活性の起源を探るとともに、新たに改良された触媒の開発に取り組んでいくとしている。

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