従来よりも高い5.2Vを上限作動電圧とするリチウムイオン電池の長期安定作動を実現 東大

東京大学は2021年4月2日、東京大学大学院工学系研究科化学システム工学専攻の研究グループが、従来のリチウムイオン電池(4.3V)よりもはるかに高い5.2Vを上限作動電圧とするリチウムイオン電池の長期安定作動を実現したと発表した。

電池に貯蔵されるエネルギー量は、容量と作動電圧の積で決定される。リチウムイオン電池の容量は改良が重ねられ、理論最大値に到達しつつある。一方で、作動上限電圧は4.3V程度にとどまっており、作動電圧の向上がリチウムイオン電池のさらなる高エネルギー密度化の鍵だ。

これを実現するために、高い作動電圧を有する正極材料が多く開発されてきたが、長期にわたる充放電安定性の確保が困難なため、実用化への見通しは立っていない。高電圧動作(高酸化雰囲気)時の劣化現象は、電解液と正極活物質の酸化副反応が起点とされており、これを抑制する研究も行われてきたが、十分な効果は得られていなかった。

しかし研究者らは、正極に導電性を与えるため少量添加する炭素導電助剤への電解液中のアニオン(マイナスイオン)の挿入により引き起こされる副反応が劣化の主要因であることを突き止めた。そして、これを効果的に抑制する電解液設計を施すことで、超5Vリチウムイオン電池の実用レベルの安定作動に初めて成功した。

通常の電解液中には、フリーなアニオンや溶媒分子が豊富に存在していて、一定電圧以上(リチウム基準で4.5V以上)になると炭素導電助剤の黒鉛層間に挿入される。問題は、黒鉛の層間距離に対し、アニオンや溶媒分子の大きさが非常に大きいことだ。層間が大きく拡張することで構造が破壊され、新たな活性サイトが出現することによって、電解液の酸化分解反応が加速すると同時に、正極全体の導電性が低下する。

研究者らは、このアニオンや溶媒分子の挿入を抑制する手法として、高濃度電解液に注目した。この電解液では、アニオンや溶媒分子が全てリチウムイオンと強く結び付いているため、炭素導電助剤への挿入が困難だ。また、特殊な液体構造により、既存の電解液で問題となっていた高電圧における電解液の酸化分解反応も抑制できる。

さらに、正極表面にアニオンの透過を防ぐ保護膜を形成できる溶媒を採用することで、炭素導電助剤にアニオンが近づきにくくすると同時に、正極活物質の表面を強い酸化雰囲気から保護できるようにした。

このような多機能を発揮する電解液を適用したところ、フッ化リン酸コバルトリチウムと黒鉛から成る5.2Vを最大充電電圧とする高電圧リチウムイオン電池の実用レベルの安定動作(初期容量比93%維持率/1000 回充放電)を達成したという。

本研究により、長年不可能だった5V以上の上限電圧で動作する高電圧リチウムイオン電池の長寿命化が可能であると実証され、理論的限界に近づきつつあったリチウムイオン電池のエネルギー密度に大幅な増加の余地が生まれた。また本研究の成果は、高電圧作動による電池の直列数低減や、複数の副反応同時抑制による長寿命化などにより、現行型を含むさまざまな電池システムのエネルギー密度や信頼性向上にも寄与することが期待できる。

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