東京工業大学は2021年5月31日、有機エレクトロニクス用基板に色素などの有機化合物を任意の位置や形状に塗布する技術を開発したと発表した。
有機エレクトロニクスではプラスチックやガラスなどの基板上に有機化合物の薄膜を作ることで回路や素子を作製する。従来の成膜は、素材となる有機化合物が疎水性のものが多いために有機溶媒を用いたスピンコート法や、大規模な装置が必要な真空蒸着法が主流であった。また、上記の2種の方法では任意の位置や形状に膜を作製するためには、不要な箇所をマスクで覆う必要があった。
今回の研究では、遠隔から任意の位置に電位を加えることができるバイポーラ電極の仕組みを利用。水中で電気刺激を加えることで、有機化合物を内包させたミセルを崩壊させ、その有機化合物を電極基板表面の任意の位置や形状に塗布することに成功した。
界面活性剤などの分子が溶液中でコロイド状の集合体となったミセルは、水中で色素などの疎水性有機物を内包できる。電気化学活性を持つミセルは、バイポーラ電極で電気化学反応を起こして崩壊し、内包した分子を放出する。今回、この原理を用いてミセルに内包させておいたビニルカルバゾールモノマーやフタロシアニン色素、凝集誘起発光性分子などの機能性有機化合物を、有機エレクトロニクス基板などに用いられるITO透明導電ガラスの表面に任意の形状で塗布することに成功した。
水溶液中のITO透明導電ガラスにバイポーラ電気化学セルを設置。外部電極から水溶液中に電場を発生させることでITO透明導電ガラスをバイポーラ電極として機能させた。ミセルの崩壊と内包分子の放出は陽極部位で選択的に発生。発生させる電場の大きさや分布を変えることにより厚みや成膜面積を制御することができた。
今回開発した手法は、マスクを使用せずに容易に基板を成膜でき、なおかつ水を媒体としているので環境負荷も低い。今後は有機エレクトロニクスデバイスの新たなパターニング技術として期待されるという。