豊橋技術科学大学は2021年7月30日、高演色化材料としての活用が期待できるスマートマテリアルを母材にした新規赤色蛍光体を合成したと発表した。
同大学によると、白色LEDは青色光によって黄色蛍光体を発光させることで得るのが代表的な方法だ。しかしこの方法では太陽光と比較して赤色光が不足しているため演色性が低いとされる。そのため赤色発光を示す蛍光体は、高演色化材料として重要な役割があるという。
同大学では、以前からスマートマテリアル(Li-M-Ti-O(M=NbまたはTa))を母材にし、Eu3+を賦活剤にした赤色蛍光体の合成を行ってきたが、今回希土類を用いないMn4+を賦活剤とした新たな赤色蛍光体の合成に取り組み、成功した。
Li-Nb-Ti-O(LTN)系とLi-Ta-Ti-O(LTT)系は、いずれも自己組織的に周期構造を形成し、TiO2添加量によりインターグロース層の周期間隔が変化するスマートマテリアルである。LTTのほうが周期構造形成の領域がLNTよりも狭く、周期形成のための焼成条件にも差がある。今回、LNTとLTTを比較しながら、焼成温度、組成、結晶構造、MgO共添加による発光強度とMnイオンの価数変化を詳細に調べた。研究の結果、焼成温度や、組成による結晶構造変化により、LTTの方がLNTより発光強度は顕著に高くなることがわかった。
一般に焼成温度が高いとMn4+からMn3+に還元されやすくなるため発光強度が低下する。結晶構造変化の面では、TiO2添加量が増えると周期を形成しているインターグロース層[Ti2O3]2+の数が増えることで周囲の酸素が欠損し、Mn4+からMn3+への還元を促進することが分かった。また、発光強度を向上させるためにMgOを添加すると、周期構造を持たないLTT蛍光体が、Mn4+率100%を示し、最も明るい発光強度を示した。
今回合成した蛍光体は、Mn4+率を上げるために、比較的低い850℃の焼成温度で合成することから、結晶性がやや低いという課題がある。同大学では今後、合成プロセスの工夫やさまざまな共添加剤によって、さらに明るい赤色蛍光体の合成に取り組んでいく。また、希土類を賦活剤としない蛍光体として、植物育成用LEDなどの深赤色Mn系蛍光体への関心が高まっていることから、今後の用途の広がりが期待できるという。