AIを使って複数のフロー電池の特性を同時に最適化する

風力や太陽光など自然の力を使う再生可能エネルギーは発電量のコントロールが難しいため、導入するには発電された電力をためておく蓄電池が必要となる。蓄電池の開発は進められているが、その中でも特に期待されているのがフロー電池だ。フロー電池は、電解質の液体が入った2つのタンクが正極と負極となり、電荷を交換することで大量のエネルギーを蓄える。

フロー電池を開発する研究者にとって最大の関心は、大量のエネルギーを貯蔵し、かつ長期的に安定した状態を保てる分子を見つけることだ。アメリカのエネルギー省(DOE)傘下のアルゴンヌ国立研究所の研究者たちは、AIを用いて100万種以上の化学物質からフロー電池に適している分子を検索する技術を開発した。研究成果は、『Chemistry of Materials』に2021年10月26日付で公開されている。

フロー電池に使用する化学物質の多くは、いくつか特性を満たさなければならない。そのため複数の特性について同時に最適化することで、フロー電池に最適な物質が見つかる可能性が高まる。

今回研究チームは、陽極液の酸化還元剤について、還元電位、溶媒和自由エネルギー、蛍光の吸収波長という3つの特性を最適化するモデルを構築した。3つの特性のうち、還元電位と溶媒和自由エネルギーは分子が蓄えることができるエネルギーの大きさと関係し、蛍光は電池全体の劣化状態をモニタリングするために活用する。

研究者によると、全ての候補物質から最適な物質を探し出すのは、干し草の中の1本の針を発見するようなものだという。一つひとつ計算していくと非常に時間がかかるため、今回は機械学習やAIの技術である能動的学習を利用した。つまりまずは小さな干し草のかたまりで学習させ、効率的に干し草全体から探す方法を自らに教え込むのだ。

小さな干し草のかたまりとしては、すでに量子力学シミュレーションで特性が明らかになっている1400種の酸化還元剤候補をデータセットとして用いた。このデータセットを練習として使うことで、アルゴリズムが最適な特性を持つ分子を正しく認識できるようになる。

1400種の候補で検討した後、候補となる化学物質の数を100万種まで増やし、モデルの性能を繰り返し向上させていくことで、より優れた分子が見つかるようになった。最終的にはわずか100種の化学物質を調べただけで、元のデータセットよりも魅力的な特性を持つ分子が見つかるようになったという。

研究チームを率いるアルゴンヌ国立研究所のAssary氏は、「自然界に完璧なものはなく全ての面で理想的な分子はありません。しかしこのモデルを用いれば、さまざまなパラメーターを調整して最適なものが発見できます」と述べている。また、この最適化アルゴリズムは、フロー電池以外の電池や、他の分野にも応用できる可能性があるという。

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