超重元素ドブニウム同位体の精密質量測定に初めて成功——新元素の新しい原子番号の確実な同定法検証 KEKら

超重元素領域の原子核の地図(核図表)

高エネルギー加速器研究機構(KEK)・素粒子原子核研究所・和光原子核科学センター(WNSC)、理化学研究所、九州大学を中心とする国際共同研究グループは2021年8月31日、原子番号105番の超重元素ドブニウム同位体257Dbの質量を精密に測定することに成功したと発表した。超重元素の存在理由を解明する第一歩になるという。

「超重元素」は原子番号が104以上の元素の呼称で、より原子番号の大きな新元素の探索が続けられており、現在は118番のオガネソンまで確認されている。

原子核は、正の電荷を持つ陽子間の電気的な反発力が大きく、核力による引力との絶妙なバランスの上でどうにか存在できている。原子核が単純に一様な球形だとすると、原子番号92のウランも安定に存在できないはずであり、原子番号が何番までの元素が実際に存在できるかの限界を探ることは大変重要だという。さらに、なぜウランや超重元素が存在できるかの解明には、系統的に結合エネルギーを調べることが有効である。

より安定で寿命の長い原子核が、現在確認できている超重元素よりもさらに重い領域にあると予言されており、「安定の島」と呼ばれている。超重元素同位体の質量をくまなく測定することは、安定の島がどこにあるか、どれくらい安定なのかを予測する精度を上げるためにも必要となる。

質量は原子核に固有の値なので、原子核の種類を同定する「指紋」にもなる。精密質量測定は、より正確な同定法として期待されており、今後発見されるはずのより重い原子核では一層重要となる実験方法だという。

研究では、理研の重イオン加速器施設「RI ビームファクトリー(RIBF)」の気体充填型反跳核分離器(GARIS-II)と、多重反射型飛行時間測定式質量分光器(MRTOF)を用いて、初めて原子番号105のドブニウム同位体(257Db)の直接質量測定に成功した。

実験装置俯瞰図

GARIS-II装置内に設置した鉛(208Pb)回転標的に、リングサイクロトロンで306 MeV(メガ電子ボルト)に加速したバナジウム(51V)ビームを照射し、融合反応でドブニウム同位体257Dbを生成したという。ドブニウム同位体イオンはGARIS-IIでビームと分離されるが、ヘリウムを充填した冷凍ガスセル中で一旦停止させる。

ヘリウムガス中で3価のイオン(257Db3+)として停止したドブニウムは、セル内に配置した高周波カーペットで効率よく集められ、イオントラップ中に数ミリ秒蓄積し、冷却してからMRTOF質量分光器に打ち出して質量測定した。

ドブニウム同位体イオン(257Db3+)は、1/100秒かけてその中を300周回往復し、その総飛行時間と、同じく300周回飛行させた参照のルビジウムイオン(85Rb+)の飛行時間との比から質量を決定した。

飛行時間スペクトルは、6日間かけた延べ104時間の測定で得られた。分類により、真のDb事象と判断した11個の事象の85Rbとの質量比の荷重平均した値から、257Dbの質量を257.10742(25)u と、百万分の一の高い相対精度で決定することができたほか、結合エネルギーが1892.1(2)MeVと導出できた。

(左)測定した飛行時間スペクトル。横軸は257Db3+イオンの飛行時間を、参照イオン(85Rb)の飛行時間との比(ρ)で表示。縦軸は実際の測定日時。
(右)飛行時間と相関があったα線のエネルギー(横軸)と、イオン飛来からα線検出までの時間(縦軸:崩壊時間)の相関を示している。

今回の結果から、研究グループが開発したMRTOF質量分光器とα-TOF 検出器を用いることにより、極稀にしか生成できない超重元素の同位体でも精密質量測定できることがわかった。また、この原子核の付近では元素の違いによる質量差が十分大きく、1~2個の確実な事象が観測できれば、原子番号を同定するに十分な精度が得られることを示した。

精密質量測定が実験的に可能な装置の開発は、超重元素という原子番号の大きな元素の原子核が存在できる仕組みを解明するための第一歩となる。今後は、できるだけ多くの超重元素同位体の質量を測定し、その系統性から、それが存在できる仕組みや、安定の島の位置の予測精度をあげることが期待される。

より中性子数が多いニホニウム、モスコビウム同位体の質量測定も予定しており、この質量測定から、より重い超重元素の原子番号も確実に同定できると期待される。さらに、これまでは寿命が短く連続的にアルファ崩壊する超重元素同位体しか検出できなかったが、何らかの方法で背景事象さえ分別できれば、精密質量測定が新しい検出、同定法になることも実証できたという。

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