イオン伝導性と強誘電体を共存、新たな動作原理による有機メモリ素子の開発につながる分子集合体構造を開発 東北大学

東北大学は2021年10月7日、イオンチャネル構造を有する液晶性クラウンエーテル誘導体と液晶性強誘電体からなる混晶を作製し、イオン伝導性と強誘電性が共存した新規な分子集合体構造の開発に成功したと発表した。本来、伝導性と強誘電性は相反する性質と考えられてきたが、強誘電体メモリとしての性能を向上させる事がわかったという。

同大学多元物質科学研究所の芥川智行教授らの研究グループは、分子間水素結合に着目。外部電場の印加による水素結合反転を起源とする分極反転を用いた有機強誘電体を開発してきた。強誘電体が持つ性質を利用すると不揮発性強誘電体メモリを作成でき、スマートカードなどでの実用化が進んでいる。

より小さな外部電場でオン、オフのスイッチングができ、より大きな残留分極値(Pr)を持つ物質が優れたメモリ材料と言えることから、有機強誘電体の設計では、強誘電体の電場-分極(PE)曲線で抗電場(Et)を小さくし、Prを大きくするための分子設計が重要となる。有機材料の合成による設計自由度の高さは、この様な問題を解決するために有効な手法と考えられるという。

側鎖に3本のアルキルアミド鎖を有するベンゼン誘導体は、ディスコチックヘキサゴナルカラムナー(Colh)液晶相を示し、PE曲線にヒステリシスを示す強誘電体となることが明らかにされている。N-H・・・O=アミド水素結合を介した一次元カラム構造からなるベンゼン誘導体の分子集合体は、外部電場 Eをカラムに水平な方向に加えると、極性アミド基の向きが上下で反転し、分極反転となって強誘電性が出現する。

今回、同様なColh液晶性を示すクラウンエーテル誘導体を新規に合成。側鎖である4本のアルキルアミド基の分子間N-H・・・O=水素結合により一次元カラム構造を形成し、同時にクラウンエーテルの一次元的な積層によるイオンチャネル構造を発生させる。

強誘電性液晶(1)とイオン伝導性液晶(2)の分子構造。アルキルアミド鎖間の分子間 N-H•••O=水素結合が一次元カラム構造を形成する。分子2ではクラウンエーテルの積層によるイオンチャネルが出現する。電場-分極ヒステリシス曲線における抗電場(Ec)と残留分極値(Pr)。イオン変位による分極Pionと分子1の真性分極P1の和がマクロな残留分極Prとして観測される。

6個の酸素原子から構成される18-クラウン-6-エーテルは分子中心に空孔が存在し、その直径はK+イオンと良く適合することが知られており、Na+イオンだと空孔サイズより小さく、Cs+イオンだと大きすぎることになる。

18-クラウン-6-エーテルが形成するチャネル内のイオン運動の自由度は、イオンの組み合わせを変化させることによって制御でき、チャネル内のイオン運動の自由度はNa+>K+>>Cs+の順で減少する。実際、新規に合成したクラウンエーテル誘導体のNa+、K+、Cs+錯体のイオン伝導性は、Na+塩で10-6 Scm-1(460K)となり、最も大きな値を示す。

強誘電体カラムとイオン伝導性カラムがドメイン分離した Colh 液晶相(左上)。Na+をチャネル内に導入した混晶(1)x(2)1-xP–E曲線の温度依存性(右上)。
チャネル内にランダムに存在するイオンが外部電場の印加によりイオン変位する。その変位量は Na+ > K+ > > Cs+の順で減少し、サイズの小さなNa+の場合に最もイオン変位が大きくなる。

新規に合成したクラウンエーテル誘導体の分子集合体は強誘電性を示さなかったことから、研究チームは前述のベンゼン誘導体の分子が形成する強誘電性液晶と、新規に合成したクラウンエーテル誘導体の非強誘電性液晶を混合。同様なColh液晶相の形成と強誘電性の発現が確認できた。

一般的にイオン伝導性と強誘電性は相反する性質であり、共存に関する研究はあまり試みられてこなかったが、ベンゼン誘導体分子の強誘電性の水素結合カラムと、新規に合成したクラウンエーテル誘導体分子のイオン伝導性の水素結合性カラムが共存することで、イオン伝導性強誘電体の開発に成功した。

イオン変位により分極値をブーストされた強誘電体が新たに設計でき、不揮発メモリのスイッチング特性を支配する代表的な物理量であるPr値の化学的な制御が可能になる。

現在実用化されているPZTなどの多くの無機強誘電体材料が鉛などの毒性の高い重金属を含むが、環境に対する負荷の少ない軽元素から構成される有機強誘電体は、低環境負荷でSDGsに配慮できる新メモリ材料の創製につながると期待されている。分子集合体における多重機能性の実現は、新たな動作原理によるフレキシブル有機メモリの開発を可能とし、その性能向上、次世代有機エレクトロニクス創製に向けた新たな指針を提案するものだとしている。

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