千葉大学は2021年10月29日、光渦と呼ばれる特殊なレーザー光を誘電体(絶縁体)のナノ微粒子が分散して存在する液膜に照射することで、青から青緑の構造色を示すフォトニック構造のマイクロリングを印刷することに成功したと発表した。また、金属のナノ微粒子が分散する液膜に光渦を照射すると、単一の金属ナノ粒子を高解像度で印刷できることも示し、次世代プリンタブルエレクトロニクス技術の確立につながることが期待できるとしている。光渦とナノ粒子の相互作用に基づくこれらの現象を応用すると、混合物中のナノ微粒子の種類が誘電体であるか金属であるかに応じて、「光渦ナノ粒子ソーティング」という新しいナノ微粒子分離法が可能となる。
研究グループによると、螺旋位相板によって光渦に変換した波長532nmのナノ秒パルスレーザーを、ガラス基板上のドナーである誘電体ナノ微粒子分散液膜にビームスポットが50µmになるようにレンズで集光。単一パルス照射で液膜から単一液滴を吐出して、別のガラス基板上(レシーバー基板)にドットとして転写した。すると、誘電体ナノ微粒子から成るマイクロリングがレシーバー基板上に印刷されることが確認された。
吐出された液滴は、光渦の軌道角運動量によって自転運動しながら飛翔。その結果、誘電体ナノ微粒子は液滴中で遠心力を受けてリング状に高密度充てんされ、マイクロリングを形成して印刷される。
さらに、研究グループは光渦を用いた光渦レーザー誘起前方転写法(光渦LIFT)を考案。ドナー液膜のナノ微粒子濃度を変えると、印刷されるリングを構成する層の数が変化し、構造色も青から緑青に変化した。また、ナノ微粒子分散液に光渦LIFTを照射すると、光渦の位相特異点(光の暗点)に捕捉された単一金ナノ微粒子がナノコアとして印刷されることが分かった。この技術によって、光を使って単一金属ナノ微粒子をサブマイクロンスケールの空間分解能で思い通りの位置に印刷できるようになる。
この技術を応用すると、ナノ微粒子の濃度や光渦の角運動量の次数を変調するだけで、さまざまな色調を発色させることができるようになり、色材を使わずにカラー印刷が可能になる。さらに、マイクロリングは光の伝播速度を制御できる光ルーターなどへの応用が期待でき、金属ナノコアもバイオセンサーなどのデバイスに応用できる可能性がある。
今回の研究成果は、2021年10月20日付でドイツ学術誌『Nanophotonics』オンライン版に掲載された。