電気化学反応速度を5倍に――MITの研究チームが燃料電池を効率化する手法を考案

(右図)電極触媒の反応速度を増大する新しい手法が開発された。触媒(灰色球体)と反応物質(赤色球体)の間にイオン液体層(六方格子)を装入することによって、反応速度を5倍増大することができる。(左図)燃料電池において、酸素(赤)と水素(緑)が結合して水を生成する反応速度が増大される。

燃料電池や空気電池などの次世代電池において、電極における電子の移動を発生させる酸素還元反応を促進する手法が、MITの研究チームによって考案された。金やプラチナの触媒と電解質の間に、「イオン液体」と呼ばれる薄い層を装入することにより、電気化学反応速度を5倍まで増大することが可能になる。従来の燃料電池では反応速度が遅いため流せる電流が低いという問題があったが、これを解決する方法として期待される。研究成果が、2021年9月6日の『Nature Catalysis』誌に論文公開されている。

燃料電池や空気電池など、酸素をエネルギー発生に用いる電池の場合、酸素分子が正極から電子を受け取って水素イオンと反応して水分子を生成する、いわゆる酸素還元反応が、電池メカニズムの中核的役割を担っている。酸素還元反応に使われる触媒として、白金を担持した炭素触媒などが使用されてきたが、高コストかつ活性が低く反応速度が遅いという問題がある。そのため、酸素還元反応を効率化する様々な触媒材料や、電極触媒表面の成分や構造を改質することなどが検討されてきた。

研究チームは、イオンのみから構成され静電的な相互作用の強いイオン液体に着目し、触媒と電解質の間にイオン液体の薄い層を装入して、界面における水素原子プロトンの活性を高めることに挑戦した。その結果、界面を通した水素結合が強くなることにより、プロトン共役電子移動(proton-coupled electron transfer:PCET)が加速され、酸素と水素による酸素還元反応速度が5倍まで増大することが判った。

この現象のメカニズムは、フーリエ変換赤外分光その場観察と、プロトンの振動波動関数に基づいたPCETのシミュレーション計算によって確認された。「この研究で、界面における分子間水素結合が、電極触媒の活性を増大する上で重要な役割を果たしていることが判った。更に、PCETのメカニズムについて、量子力学レベルで基礎的知見を得ることができた」と、研究チームは語る。

「触媒表面の改質ではなく、数nm厚さのイオン液体層に着目することによって電極触媒活性を増大する手法は、従来と全く異なった道を切りひらいたものだ。水素との反応を通してエネルギーや化学物質を創製する電気化学デバイスに広く活用できる。また、イオン液体を適切に選択することでプロトン活性やPCETを制御できるので、多様な酸素還元反応に対して最適な触媒を設計できる。航空機や車両などの輸送分野を脱炭素化する上で、燃料電池などの電気化学デバイスにより水素を活用することは重要であり、新しい手法はその発展に貢献できるものだ」と期待している。

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