電力不要で海水を淡水化――EU主導で進行中の海水淡水化プロジェクト

既存電力網を必要とせず、微生物淡水化細胞(MDC)を利用した海水淡水化プロセスが考案された。/© FCC AQUALIA SA

欧州委員会が推進する「HORIZON 2020」プロジェクトにおいて、既存の電力網に頼らずに海水淡水化を実現できる、2つの新しいプロセスが検討されている。微生物淡水化細胞(MDC)技術および波力駆動逆浸透膜技術によるもので、外部からの電力供給を必要とせず、発展途上国や遠隔地域、島嶼国における慢性的な水不足を解決することが期待されている。両プロセスとも、現在、パイロットプラントにおける実証研究が進行している。

水は、生命にとって必要不可欠なものだ。清浄であるとともに全人類がアクセスできる必要があるが、未だ10億人が水資源の乏しい地域で生活しており、2025年までに35億人が深刻な水不足を経験すると言われている。水不足は、発展途上国や遠隔地域、島嶼国においてすでに慢性的で深刻な問題になっているが、世界資源研究所によれば、水需要は2050年まで最大30%の割合で増加すると予想されている。

欧州における最初の淡水化プラントは、半世紀前にスペインに建設された。それ以来、南欧を中心とする水不足地域でプラントが建設されてきたが、。現在ではオランダやベルギーといった国々でも、淡水化プラントへの投資が進んでいる。淡水化の最も一般的な手法は、逆浸透膜(RO)によるものであるが、電力網との接続が必要で、電力へのアクセスが困難な孤立した地域では高コストなエネルギー集約型となる。こうした観点からHORIZON 2020プロジェクトでは、通常の電力網に依存することがなく、再生可能なエネルギーによって作動できる2種類の淡水化プロセス開発の研究を実施している。

ひとつは、微生物が有機物を分解する過程で生じる電子を利用する微生物燃料電池(MFC)を発展させた、微生物淡水化細胞(MDC)を利用するものだ。負極槽と正極槽から構成されるMFCをベースに、その中間に淡水化槽を設け、微生物が誘起する電気化学反応によって、淡水化槽の海水塩分の正負のイオンを、各々負極槽と正極槽に排出するものだ。解決しなければならない課題が多い技術だが、現在スペインの水道管理会社Aqualiaを中心に2つのプロトタイプ設備が稼働中で、性能とコスト効率の改善と最適化の研究が行われている。

もうひとつは、海底に設置され波とともに前後に動くWave Energy Converter(WEC)を利用し、波力エネルギーで海水を加圧するとともに、沿岸に搬送して直接RO淡水化システムを駆動するものだ。WECは容易に設置でき、波力という無尽蔵の再生可能エネルギーだけで稼働でき、従来のディーゼル発電システムの1/3のコストで大量の淡水化が可能だ。現在、米マサチューセッツ州のResolute Marine社を中心に、小型パイロットを用いた実証試験を行っており、成功した場合には北西アフリカ沖合のカナリア諸島および島国カーボベルデに商用パイロットを設置する予定だ。

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