- 2021-12-8
- 化学・素材系, 技術ニュース, 海外ニュース
- totimorphic material(全ての形態を持つ材料), ハーバード大学ジョン・A・ポールソン工学・応用科学スクール(SEAS), バイオテクノロジー, ユニットセル, ロボット工学, 学術, 形状変化材料, 数学モデリング, 米国科学アカデミー紀要(PNAS)
あらゆる形状を取ることができ、その形状を保つことができる形状変化材料が開発された。この研究は米ハーバード大学ジョン・A・ポールソン工学・応用科学スクール(SEAS)によるもので、2021年10月19日付で『米国科学アカデミー紀要(PNAS)』に掲載された。
変形材料を設計する際の最大の課題の1つは、順応性と剛性という一見して相反するニーズのバランスを取ることだ。順応性があると新しい形状への変形が可能になるが、順応性が高過ぎると形状を安定して維持することができない。一方、剛性は材料の形状を保持するには役立つが、剛性が高過ぎると新たな形状に変形できない。現在の形状変化する材料や構造は、いくつかの安定した形態の間でしか遷移できなかった。
今回の研究で、研究チームはまず、支柱とレバーという2つの剛性部分と、伸縮可能な弾性ばねを2つ持つ、中立的に安定したユニットセルを作製した。中立的に安定している材料の例として研究者らが挙げるのは、ピクサー映画の冒頭に出てきて跳ね回るデスクライトだ。あのデスクライトのランプヘッドは、アームの状態に関わらず、状況に応じて伸縮するばねが常に重力に対抗するため、どのような位置でも安定している。
一般的に、中立的に安定しているシステムでは、剛性部分と弾性部分の組み合わせがセルのエネルギーのバランスを取り、それぞれを中立安定状態にする。つまり、さまざまな位置や向きを無限に遷移でき、どのような位置や向きにおいても安定している。
中立的に安定しているユニットセルを用いることで、個体レベルと集団レベルの両方で、材料の形状とその機械的応答を分離できる。今回作製されたユニットセルの形状は、全体の大きさと個々の可動支柱の長さを両方変えることで変化させられる。一方、弾性応答は、構造体内のばねの硬さ、あるいは支柱やリンクの長さを変えることで変化させることができる。
研究チームは、このアセンブリを、あらゆる安定した形状に変形できることから「totimorphic material(全ての形態を持つ材料)」と名付けた。そして、個々のユニットセルを自然に安定したジョイントで接続し、個々のtotimorphicセルから2D構造や3D構造を構築した。
研究チームは、この材料の変形能力を示すために、数学モデリングと実世界でのデモンストレーション実験の両方を行った。totimorphicセルで作った1枚のシートが湾曲したり、らせん状にねじれたり、2つの別個の顔に変形したり、さらには重みに耐えられたりすることが実証できた。
この材料は幾何学に基づいているため、スケールダウンしてロボット工学やバイオテクノロジーのセンサーとして使用したり、建築用にスケールアップしたりすることができる。このような材料は、変形応答を複数のスケールで制御可能な新しい種類の材料への道を開くものといえる。