50年にわたる金属疲労/クリープ試験の成果を発表――金属疲労破壊事故を防ぐための重要データ NIMS

内圧クリープ試験により破断した発電所で用いられるパイプ試料

物質・材料研究機構(NIMS)は2020年2月21日、『Science and Technology of Advanced Materials』に、50年にわたる金属疲労/クリープ試験の成果をまとめたレビュー論文「Catalog of NIMS fatigue data sheets」と「Catalog of NIMS creep data sheets」を発表したと公表した。

NIMSでは、日本で生産される各種金属構造材料の応力下での寿命を評価するために、過去半世紀にわたって、それらの長時間にわたる疲労/クリープ試験を行ってきており、その成果がレビューされた。

金属材料は繰り返して応力にさらされると疲労破壊を起こし、また、高温で一定応力を加え続けられるとクリープ変形を起こし、破壊へとつながることが良く知られている。1985年の御巣鷹山への日航機墜落事故など、金属の疲労破壊による悲惨な事故が起こっている。疲労破壊事故を防ぐためには、それら材料の寿命を評価し、適切な検査時期の設定、材料の交換が行われなくてはならない。NIMSの金属疲労/クリープ試験のデータはそれを支える重要な役割を果たしている。

NIMSの前身である金属材料技術研究所は、耐熱鋼および合金が高温下、10万時間(約11.4年)で破断するに要する応力を決定するという目的で、1966年に「クリープデータシートプロジェクト」を立ち上げた。このプロジェクトで得られるクリープ破壊強度のデータは、当初、発電所のボイラー、圧力配管など、各部材に用いられる金属材料の許容応力を決めるために必要とされた。近年は、それら金属材料がクリープ破壊を起こすまでの期間を評価するために用いられる。現在、60のクリープデータシートがある。

その約10年後となる1978年から、構造材料の疲労特性データシート(Fatigue data sheets)の発行を開始。これは、自動車や飛行機も含む種々の産業分野で用いられる日本製の金属構造材料全般の巨大な疲労特性データベースとなっていて、鋼、アルミニウム合金、チタン合金などの室温または高温での高サイクル/低サイクル/ギガサイクル疲労試験の結果を網羅している。また溶接継手部の疲労特性もカバーしており、実際、構造材料の疲労特性の巨大なデータベースとなっている。現在、126の疲労特性データシートがあり、なお増加中だ。

NIMS fatigue data sheets

疲労試験は、室温あるいは高温下で、金属試料にサイクルで数える繰り返し負荷を加え、クラックが伝播、拡大していくのにどの程度多くのサイクルが必要かを測るものである。基本的な疲労特性を測る疲労試験は、107から1010サイクル行い、数年の期間を要する。

NIMSクリープデータによると材料の長時間クリープ強度特性は材料の種類に強く依存する。材料は、温度が変わった時、材料の化学組成、少量添加元素の量、結晶粒径に依存して異なる反応を示し、材料の種類に応じたクリープ破断データを評価するには解析手法の選定も必要だ。火力発電所で一般的に使われているフェライト耐熱鋼は本質的な長時間クリープ強度(基底クリープ強度)を有しているが、このクリープ強度は、少量溶質成分の添加量と、固溶体強化量に依存している。

NIMS creep data sheets

疲労限度は高サイクル疲労により決められ、主に金属の抗張力と硬度に影響される。ある種の金属では、室温であるかぎり応力を加えても、信じられないほどの長時間クラックの発生がないが、その同じ金属も高温下では同じ応力で結局クラックが発生することもNIMSの研究で発見されている。

現時点では、NIMSで開発、蓄積してきた疲労/クリープデータシートは、”MatNavi”から閲覧でき、主に産業界で用いられている。今後、2020年の中頃までにはこのデータシートを “Materials Data Repository (MDR)”へ移行、アクセシビリティを改善し、学術分野からの利用も促進したいとしている。

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