理化学研究所(理研)は2022年2月10日、ヒトのように表情をつくれるヒト型ロボット(アンドロイド)を開発し、その妥当性を心理実験で実証したと発表した。研究成果は、アンドロイドが表情を通してヒトと感情的なコミュニケーションをとることが期待できるものとなる。
ヒトのように表情をつくることを目指したアンドロイドの研究はこれまでにいくつか報告されているが、ヒトのデータに基づいて表情筋の動きを精緻に再現し、心理実験でその妥当性を厳密に検証した例はなかった。
研究チームは今回、ヒトの解剖学/心理学の知見に基づいてアンドロイドの頭部を開発。「Nikola」と名付け、3つの心理実験で表情の妥当性を検証した。
1つ目の研究では、Nikolaが「表情筋の動き(例えば、眉を寄せたり口角を上げたりなど)」を17個のつくり出し、表情の専門家が心理学研究で用いる顔面動作符号化法と呼ばれるヒトの表情筋活動を評価する方法で、表情筋の動きを確認した。その結果、表情専門家により、17個の表情筋の動きがヒトと同様の動きのパターンだと証明された。
2つ目に、怒り、嫌悪、恐怖、幸福、悲しみ、驚きの6つの基本感情の表情をしたNikolaの各写真を用いて、一般参加者30人が感情を認識できるかを実験。その結果、一般参加者は、統計的に有意なレベルで全ての基本感情を適切に認識した。
3つ目の実験では、0.3秒、0.5秒、1.0秒、2.0秒の4つの速度で、Nikolaが基本6感情の表情を表出する動画を作製。「表情の自然さ」を一般参加者30人が評価したところ、例えば驚きの表情は早いほうが自然である、悲しみの表情は遅いほうが自然であるなど、ヒトの表情の場合と同様に、Nikolaも感情によって速度の影響が異なることが示された。
これらの結果から、Nikolaの表情がヒトと同様だと証明された。今回の知見は、アンドロイドがヒトと同様の空間的/時間的パターンで感情を表現できると実証した世界初の例となる。
アンドロイドNikolaは今後、感情コミュニケーションを調べる社会心理学実験で役立つことが期待される。こうした実験では、ヒトが表情をつくると実験が統制できない、表情の写真を呈示すると現実感が弱いという問題があったが、Nikolaにより、統制された現実で感情コミュニケーションを調べることが可能になると期待できる。また、介護現場でのアンドロイドの活用といった社会応用にもつながるとしている。