スペースデブリ(宇宙ごみ)除去など、人工衛星の軌道上サービスの開発に取り組むアストロスケールは2022年5月4日、デブリ除去技術実証衛星「ELSA-d (エルサディー)」による模擬デブリへの誘導接近の実証運用に成功したと発表した。民間で前例のない低軌道上ミッションとなった。
ELSA-dは、デブリ除去に必要な一連のコア技術を実証するための世界初の商業ミッション。軌道から安全にデブリを除去するための捕獲機構を備えたサービサーと、デブリ化した衛星に見立てたクライアントを2021年3月、カザフスタンのバイコヌール基地から高度550kmの軌道へ両衛星を固定した状態で打ち上げた。同年8月25日には、試験捕獲の実証運用に成功し、磁石を活用した捕獲機構や搭載センサー、カメラなどが正常に機能することを確認している。
2022年1月25日からは自律捕獲の実証運用を開始。サービサーに搭載したLow power radio(LPR)センサーを駆使し、自律的な軌道維持アルゴリズムによってクライアントから30mの距離を維持することに成功した。ところが、人工衛星に異常を検出したため、いったん捕獲を延期。異常を解決するまで安全な距離を確保するため、最大約1700 kmの距離を取った。
今回の実証運用では、再びクライアントへの接近を試みた。現在、サービサーに搭載している8つのスラスタのうち4つが機能を喪失しており、残った4つのスラスタのみを使って接近しなければならなかったという。
4月7日、同社は残存するスラスタを駆使してサービサーを誘導接近させ、クライアントから159mの距離でクライアントを検出。GPSと地上からの観測値を用いる絶対航法から、衛星搭載センサーを駆使する相対航法へ切り替えた。測位手法の切り替えは、一連の運用の中で最も困難な運用だったが、無事成功した。
実際にデブリを捕獲するところまでの作業は完了していないが、今回の実証運用の成功で、同社は「デブリ除去に必要な多くのコア技術や運用機能の実現性を証明できた」としている。
今後、同社では、役目を終えた人工衛星を除去する衛星「ELSA-M(エルサエム)」の設計、開発に向け、英国宇宙庁(UKSA)や欧州宇宙機関(ESA)などとともに技術開発や計画を進めていく。