難加工材料のチタン合金を鋳造できる、安価な砂型を開発 産総研ら

産業技術総合研究所(産総研)製造技術研究部門 素形材加工研究グループ 前副研究部門長の岡根利光氏らは2022年5月11日、TANIDA、石川県工業試験場と共同で、伝統的な砂型鋳造法によるチタン合金部品の製造技術を開発したと発表した。鋳造されたチタン合金は、もろい表面反応層の発生が少なく、塑性加工材と同等の強度と延性を有している。

軽量、高強度、高耐食性という優れた特性を持つチタン合金は、高融点、高反応性の難加工材料でもあり、専門的な技術が鋳造に必要となる。しかし、日本は航空機や化学プラント用の大型チタン合金の鋳造品を先進的な技術を持つ諸外国からの輸入に頼っているため、製造コストや安定供給に課題がある。

そこで今回、紀元前より存在する伝統的な金属加工法であり、小型から大型まで複雑な形状の部品を比較的安価に作製できる砂型鋳造に着目。難鋳造材料であるチタン合金の鋳造ができる砂型を開発した。

鋳造用の鋳型として使用されるほとんどの材料と反応する溶融チタン合金は、アルファケースと呼ばれる硬く、もろい表面反応層が鋳造後の表面に生じるため、強度特性が低下する。そのため、チタン合金で航空機の重要保安部品などを鋳造する際は、フッ化水素酸により、表面反応層を除去している。

これはチタン合金の鋳造で避けられないものだが、製造コストの増大と廃液処理の問題を引き起こしているため、これまで表面反応層の発生防止を目的にさまざまな鋳型材料を研究、開発してきた。しかし、溶融チタン合金と反応しない鋳型材はいまだに見つかっていない。

今回、産総研が砂型の開発技術、TANIDAが材料の評価技術、石川県工業試験場がミクロ分析技術を提供し、共同で低反応型の砂型を開発。難鋳造材である溶融チタン合金が鋳造できるようになった。

産総研は、TANIDAと石川県工業試験場での評価結果から改良、調整を繰り返し、鋳造した直後の状態でも、アルファケースの発生を抑えた本来の金属光沢を有するチタン合金(Ti-6Al-4V合金)の鋳造品の作製に成功した。材料が比較的安価な砂型となっており、通常の砂型鋳造法と同様に鋳型に予熱を与えることなくチタン合金を鋳造する。

Ti-6Al-4V合金鋳造品の比較

従来の砂型で作製したチタン合金の鋳造品は、硬く、脆い反応層が表面から約250μmの厚さを成している。しかし、開発した砂型で作製した鋳造品は、表面からの硬さはほぼ一定で、元の溶解用Ti-6Al-4V合金材料の硬さとほぼ同等となっている。また、表面反応層の生成が見られなかった。

Ti-6Al-4V(64Ti)合金鋳造品に生じる表面反応層の発生状態の比較

鋳造品の強度特性は、ASTM規格で規定されている鋳造材と塑性加工材(棒材)の規格値以上、特に破断伸びは鋳造材の規格値の2倍以上、塑性加工材の規格値の約1.3倍を示した。

開発した砂型で作製したTi-6Al-4V合金鋳造品の強度特性・延性特性の測定値、Ti-6Al-4V合金の塑性加工材、鋳造材のそれぞれの規格値

今後、実製品に近い形状や大型のチタン合金部品の作製も検討する。また、国産の大型チタン合金部品の安定供給を目指すとしている。

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