産業界で発生する廃熱を使い、飲料水と電力を同時に得る「膜蒸留」技術

Photo: Aleksander Stokke Båtnes, NTNU

ノルウェー科学技術大学(NTNU)の研究チームは、産業プロセスから発生する排熱を機械的エネルギーに変換して利用し、同時に汚染水を飲料水へと浄化する技術を開発した。研究成果は、『Desalination』誌に2024年6月7日付で公開されている。

工業プロセスから発生する熱のほとんどは、有効利用されることなく大気中や海洋中に放出されているが、この余剰熱は莫大な資源になる可能性がある。ノルウェーだけでも毎年20tWhの廃熱が発生しており、このエネルギーはノルウェー全世帯の電力消費量の半分に相当するという。

一方、世界の多くの地域では飲料水が不足しており、この課題を解決する技術が求められている。産業界により排出される水は時として汚染されているが、不純物を含んだ水を撥水膜の細孔から蒸発させれば反対側から出てくる凝縮水は飲むことのできる水になる。この手法は、塩のような不揮発性不純物を多く含む水の浄化に適しており、海水の淡水化などにも応用できる。膜の一方で加熱された水は、蒸発し凝縮する際に反対側で熱を放出する。その結果、膜の両側に圧力差が生じる。廃熱を利用して生み出せる温度差は水の汲み上げに利用でき、圧力差はタービンの動力に使用可能な機械的エネルギーとなる。

論文の筆頭著者であるKristiansen氏は博士研究で、水と膜の孔との相互作用や、水が蒸発し孔を通って凝縮される際に生じる現象について調べた。膜の特性と、その特性がプロセス全体に影響を与える理論を構築し、実験的に効果を検証している。その結果、この技術には大きな可能性があると結論づけた。

この研究のそもそものアイデアは、研究成果を実生活に応用するために活動する独立機関である、オランダのTNOによるものだ。TNOは「MemPower(水と電力の同時生産)」と呼ばれるコンセプト実験を実施し、TNOの施設でプロトタイプを作製した。しかし、資金面の問題からTNOでは研究を継続できず、公開研究としてNTNUがプロジェクトを引き継いだ。

産業界は膜蒸留のコンセプトに関心を示しているものの、現状ではパイロットプラントの設置は世界でも数件しかない。その理由として、過酷な工業環境下における膜の寿命など、膜技術に関する実際的な課題があるとKristiansen氏は考えているという。「これらの課題を解決し、この技術を産業化するために、学術界と産業界の両方で多くの国際的な研究が行われています」とKristiansen氏は述べている。

関連情報

How to avoid wasting huge amounts of energy

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