タンパク質ベースの自己生成する分子論理回路を作成

ノースカロライナ州立大学とケンブリッジ大学の研究チームは、自己組織化を利用してタンパク質ベースの回路を作成し、簡単な論理機能を実行できることを実証した。この研究成果は、量子スケールにおける電子の特性を利用して安定したデジタル回路を作成できることを示している。研究の詳細は、『Nature Communications』に2022年4月28日付で公開されている。

分子エレクトロニクスの重要な課題の一つに、分子回路が小さくなると電流の向きの制御が難しくなることが挙げられる。電流を流すために必要な電子が、量子スケールでは粒子ではなく波のように挙動するため、「トンネル効果」が生じるからだ。例えば、回路上の1nm離れた箇所に2本の導線があった場合、導線間をトンネルのようにすり抜けて2カ所同時に存在してしまう。

今回研究チームは、2種類のフラーレンと光化学系I(PSI)を利用して、トンネル効果を利用した分子回路を作成した。

金基板上に2種類のフラーレンケージを配置して回路を作成し、クロロフィルとタンパク質の複合体であるPSI溶液に浸漬した。その後、ガリウム-インジウム液体金属共晶塩(EGaIn)のトップコンタクトを印刷すると、フラーレンの種類によりPSIタンパク質が特定の方向に自己集合させて、ダイオードや抵抗器を作ることができた。つまり、回路上のダイオードが必要な場所にはある種のフラーレンを、抵抗器が必要なところにはもう一種のフラーレンを配置すれば、そのようにPSIが自己組織化する。配向したPSIはトンネル電流を整流し、一方向にしか電子を流さない。

自己組織化したタンパク質集合体を人間が作った電極と組み合わせ、トンネル効果を利用して電流を調節する簡単な回路を作成した。その結果、この回路は厚さが約10nmあるにもかかわらず、量子レベルで機能しトンネル挙動が示された。またPSIベースの回路は単一分子ではなく分子群を用いているため、構造が安定しているという。

この回路を用いて単純なダイオードベースのAND/OR論理ゲートを作成し、パルス変調器に組み込んだ。パルス変調器は、ある入力信号のオンとオフを別の入力電圧に依存して切り替えることで情報を符号化できる。その結果、作成した論理回路は、3.3kHzの入力信号を切り替えることができた。この値は、現代の論理回路には及ばないものの、これまでに報告されている分子論理回路としては最速の部類に入る。

研究チームは、今回の論理回路は概念実証の初歩的なものであるが、タンパク質を利用して高周波数で作動するロバストな集積回路が作成可能であることを示したと述べている。

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