- 2022-7-14
- 化学・素材系, 技術ニュース
- Ba1/3CoO2, PbTe, ZT, エピタキシャル薄膜, テルル化鉛, 北海道大学, 北海道大学電子科学研究所, 熱電変換, 熱電変換材料, 産業技術総合研究所, 産業技術総合研究所極限機能材料研究部門, 研究, 金属カルコゲン化物熱電材料
北海道大学は2022年7月13日、同大学電子科学研究所と産業技術総合研究所極限機能材料研究部門の研究グループが、空気中/600℃で安定した性能を示す実用的な熱電変換材料を発見したと発表した。再現性が良く安定した高性能を高温/空気中で発揮する。
熱電変換は、工場や自動車から排出される廃熱を再資源化する技術として注目されているが、実用化されたテルル化鉛(PbTe)などの金属カルコゲ化物熱電材料は、熱的/化学的に不安定であることに加え、毒性もあり、大規模な応用に至っていない。酸化物はPbTeなどと比較して、基本的には高温でも酸化しないため、高温で使用できる熱電材料として期待され、研究されてきた。
実用化されたp型PbTeの熱電変換性能指数ZT(=熱電能2×導電率×絶対温度÷熱伝導率)は、300~600℃の温度範囲で約0.7で、これまでにいくつかの酸化物がPbTeのZTを超える熱電材料になると提案されている。しかし、再現性がないことから、実用化には至っていない。
こうした中、研究グループは2020年に、室温でBa1/3CoO2が良好な性能指数であるZT~0.11を示すことを発見。そこで、Ba1/3CoO2の再現性ある高温熱電特性を明らかにした。
研究グループは、まずNa3/4CoO2エピタキシャル薄膜を作製。次にイオン交換法で、Na3/4を重さが異なるCa1/3、Sr1/3、Ba1/3に置換したAxCoO2エピタキシャル薄膜(Ax=Ca1/3、Sr1/3、Ba1/3)を作製した。その後、高温、空気中での加熱により、電気抵抗率が加熱後も変化しない温度範囲を調査。その温度範囲での導電率/熱電能/熱伝導率を計測した。また、高温(600℃)、空気中での熱電能の連続測定も実施した。
その結果、600℃までの温度範囲でBa1/3CoO2が熱電変換材料として使用できることがわかった。次に、空気中、600℃までの熱電特性を計測したところ、温度上昇に対し、性能指数ZTは増加し、600℃では約0.55に達した。この値は、再現性のある酸化物のZTとしては最高値で、実用化された熱電材料PbTeのZT(約0.7)に匹敵する。
空気中、600℃に加熱したまま、2日間連続で熱電能を計測すると、熱電能に変化は見られず、安定であることがわかった。これらから、高温/空気中で再現性良く高性能を示す実用的な熱電変換材料が実現したと言える。
Ba1/3CoO2の実用化には、大型のバルク結晶が必要不可欠であるため、大型単結晶の育成に向けて研究している。同時にセラミックスの作製も進めている。今後は、企業との共同研究による実用化に向けた取り組みを考えている。