地下から無尽蔵のエネルギーを得る――MIT、強力なマイクロ波を使って大深度地熱井を掘削

強力マイクロ波発生装置を用いて、深い地殻層の岩石を溶融して地熱井を掘削し、地熱エネルギーを取り出す壮大な計画が推進されている。/Photo: Paul Rivenberg

MITのプラズマ科学核融合センターとスピンアウト企業Quaise Energyが、「ジャイロトロン」と呼ばれる強力なマイクロ波(ミリ波)発生装置を用いて、深い地殻層の岩石を溶融して地熱井を掘削し、地熱エネルギーを取り出す壮大な計画を推進している。休止した火力発電所の土地を利用し、温泉地や火山帯地域にある従来型の地熱発電所よりも深い地熱井を掘削することで、既存のタービンや送電網インフラを有効活用し、経済性の高いカーボンフリー発電を行うのが狙いだ。2026年までに、岩石温度が500℃に達する深さまで掘削できるパイロットプラントを用いた発電を開始する予定だ。

地熱発電は、地下のマグマの熱エネルギーを利用して発電を行うものだが、一般的に地下100~3000m付近の地熱貯留層からの熱水や蒸気を活用する。そのため地熱発電所は、エネルギー抽出が容易な自然条件を持つ地域に立地する場合が多く、大半は温泉地など火山帯で標高の低い平地に建設されている。さらに深い地殻層はより高温ではあるが、地殻が硬いため削岩用ドリルビットの摩耗が激しく、通常の掘削技術では限界がある。こうした点が、地熱発電が他の再生可能エネルギー源に比較して、開発が停滞している理由にもなっている。

MITのプラズマ科学核融合センターは、核融合技術におけるプラズマの研究に長く取り組んできたが、プラズマの加熱に用いられているジャイロトロンを、ドリルビットに代わる掘削法とすることに着眼した。ジャイロトロンは、磁場に沿って高速で回転する電子の運動をエネルギー源として、大電力のミリ波を発振する大型電子管であり、電子レンジの1000倍以上のエネルギーを発生できる。核融合のプラズマ加熱以外に、ロケットなどのイオンエンジンなどに活用することも検討されている。

研究チームは、プラズマ科学核融合センターにある小型ジャイロトロンを用いて、深い地殻層に相当する岩石にミリ波を照射した結果、岩石を溶融し蒸気化できることを確認した。その後、MITの投資ファンドの支援のもと、スピンアウト企業Quaise Energyを設立し、より大型のジャイロトロンを用い、10倍の深さの地熱井を掘削する概念実証研究を開始した。

2023年中には更に10倍、当初の100倍の深さの地熱井までスケールアップする計画だ。そのためには強力ミリ波を中断することなく長時間連続運転できるジャイロトロンの開発、地殻層内で高い圧力を受ける地熱井においてケーシングを閉塞させずに溶融岩石を除去する技術の開発など、実用化に向けた多くの課題が残っている。だが、研究チームは、既存のタービンや送電線をそのまま活用できる既設火力発電所を活用し、2026年までに岩石温度が最大500℃に達する地熱井を使い、経済性の高い地熱発電を開始する野心的なパイロット試験計画を立てている。

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