CIS系太陽電池材料を用いて高効率な水分解水素生成に成功――界面改質手法を開発 産総研と甲南大

産業技術総合研究所(以下、産総研)は2022年8月2日、甲南大学と共同で、CIS系太陽電池材料を用いて高効率に水素を生成する手法を開発したと発表した。

グリーン水素製造として注目される水分解水素生成には、理論分解電圧1.23Vに過電圧分を加えた電圧が求められるため、広い禁制帯幅(ワイドギャップ)を有する光電極材料が必要となる。

ワイドギャップCIS系材料のCuGaSe2は禁制帯幅が約1.7eVとなっており、タンデム型太陽電池のトップセルに加えて水分解水素生成セル向けの用途でも期待されている。

一方で同材料は、光-水素変換効率を示す「HC-STH効率」(Half-cell solar-to-hydrogen)が従来1%程度に留まっていた。産総研と甲南大学は、以前にCuGaSe2製膜技術を改善することでHC-STH効率を向上させたものの、水分解水素生成セルで依然6%超に留まっていた。

今回の研究では、CuGaSe2薄膜において、構成元素のGaやSeの供給と合わせてアルカリ金属ハロゲン化物を製膜終了直前の表面形成時に供給する手法を考案した。

これにより、ワイドギャップCIS系太陽電池で重要となる開放電圧や曲線因子が改善した。特に曲線因子は74.6%に達している。同発表によると、従来は最高でも70%程度の報告に留まっていたという。

CuGaSe2製膜終了直前のアルカリ添加によって改善した太陽電池パラメータおよび電流―電圧曲線
(反射防止膜なし、25℃、1sun(AM1.5G)標準条件で測定)

さらに、CuGaSe2の化学量論組成と比べてCuが欠乏した層を適切な厚さで表面に形成することで、CuGaSe2太陽電池の開放電圧が向上することも判明した。

これにより、CuGaSe2太陽電池の変換効率が11.05%、開放電圧が0.960V、曲線因子が72.4%となった。同発表によると、変換効率11.05%はCuGaSe2太陽電池の第三者機関測定値では世界最高レベルだという。

産総研再生可能エネルギー研究センター太陽光評価・標準チームによる測定結果
(赤線が電流―電圧曲線(左軸)、緑線が電力-電圧曲線(右軸)を示す)

次に、CuGaSe2薄膜を光電気化学セルの光電極として構成した。製膜が完了する直前にアルカリ金属ハロゲン化物を供給して光電極を作製したことで、HC-STH効率が8%超に達している。

また、薄膜表面にてCu欠乏層の厚さ制御を施すことで、オンセットポテンシャル(光応答反応の駆動力の大きさを示す指標)が0.9V超となった。

アルカリ添加およびCu欠乏層制御による界面改質CuGaSe2光電極の水分解水素生成性能
(右上図はHC-STH効率導出に用いた断続光下測定電流密度-ポテンシャルプロット)

同研究グループは今後、界面改質に加えてワイドギャップCIS系薄膜のバルク特性改善にも取り組むことで、太陽電池と光電気化学セル双方のさらなる性能向上を図る。

タンデム型太陽電池用途としては、さらに開放電圧や曲線因子を向上させることで高効率化を目指す。また光電気化学セルでは、BiVO4などの光電極(アノード)と組み合わせることで、外部電源を要しない水分解水素生成デバイスやCO2還元デバイスなどへの応用を図る。

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