工場インフラを利用した高濃度の硝酸を含む鉄鋼排水の処理方法を開発 産総研ら

産業技術総合研究所(産総研)環境創生研究部門 環境生理生態研究グループは2022年8月4日、JFEスチール、栗田工業と共同で、窒素ガス曝気、メタノール添加、膜分離活性汚泥法を組み合わせ、高濃度の硝酸を含む鉄鋼排水の処理方法を開発したと発表した。容積4000Lの装置による実証試験で、鉄鋼排水の効率的な処理に成功している。

今回の研究では、製鉄所の既存インフラを利用して小さな敷設面積で排水処理を実施する方法の開発を目指し、設置面積が小さい特長を持つ膜分離活性汚泥法を基に開発を進めた。この装置は、水処理微生物群(活性汚泥)と膜モジュールが内部にあり、処理水と微生物を膜ろ過し、浄化された水を得られるが、装置の応用前に課題があった。

脱窒菌と呼ばれる微生物が硝酸態窒素の除去に必要だが、脱窒菌が高い活性を発揮するには、酸素が存在しない嫌気状態に水処理装置内を保つ必要がある。しかし、硝酸態窒素を含む排水は、装置に流入する排水に酸素が含まれるため、脱窒菌の作用が抑制される。

脱窒菌による硝酸態窒素除去のメカニズム

そこで、工場内の副生物に注目した。製鉄所内で使用される酸素ガスを製造する際、副生物として窒素ガスが得られるが、一般的にこの窒素ガスによる曝気で液体を嫌気状態にできることが知られており、これを応用した。水処理装置の活性汚泥に窒素ガスを吹き込むと、高い嫌気状態を保つことができた。

まず、容積30Lで新しい装置を構築し、実際の鉄鋼排水処理を試みた。製鉄所内で入手できる安価なメタノールを添加したところ、高濃度の硝酸態窒素を高い効率で除去できることがわかった。

次に、次世代シーケンサーで、高効率な硝酸態窒素除去を可能とした微生物を特定。装置内では、α-proteobacteriaグループの主にHyphomicrobium nitrativorans(脱窒菌A)が活動しており、この微生物はメタノールを栄養源にして硝酸態窒素を除去できることから、今回の水処理装置に最適であるとわかった。

微生物解析の結果

この結果から、JFEスチールの工場敷地内に容積4000Lの装置を設置。排水処理試験を実施したところ、硝酸態窒素の処理性能が開始から2週間以上経っても得られなかった。

そこで、次世代シーケンサーにより水処理装置内の微生物を解析。試験装置内では脱窒菌Aの増殖に時間がかかることがわかったため、装置の運転を同じ条件で続けた。その結果、馴養を経て約50日後には硝酸態窒素をほぼ完全に除去することに成功。6000mg/L以上という高濃度の硝酸態窒素を含む鉄鋼排水を効率的に処理できた。

パイロット装置の排水処理性能

排水中に含まれる硝酸態窒素は、河川や湖沼の富栄養化、土壌や地下水を汚染する恐れがあることから、下水処理場で水処理微生物群によって除去されている。

金属産業では、有機物に乏しい高濃度(6000mg/L以上)の硝酸態窒素を含んだ排水の処理が不可欠だが、一般的な活性汚泥法で除去できる硝酸態窒素は低濃度(通常は100mg/L未満)に限られる。こうしたことから、製鉄所の既存インフラを利用した窒素ガス曝気による新しい排水処理方法を開発した。

今回開発した処理方法は、高効率で低環境負荷の技術となる。今後、さまざまな条件に適用する手法の開発や、硝酸性窒素の処理に問題を抱える企業などへ技術を展開していく。

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