励起子を制御して光らない半導体を光らせる研究

Photo: University of Oldenburg/Daniel Schmidt

ドイツのオルデンブルク大学を中心とする国際研究チームが、セレン化タングステン(WSe2)半導体の超薄膜における電子状態のエネルギー準位を制御して、通常は発光しない半導体を発光させることに成功した。近年、先端物理学において注目されている、光と物質が強く相互作用する強結合(カップリング)を利用して、光照射などで励起される電子と正孔の対である励起子のうち、発光性のある励起子のエネルギー準位を分裂し、安定したエネルギー準位を創出することにより発光を実現したものだ。研究成果が、2022年5月30日に『Nature Communications』誌に論文公開されている。

MoSe2やWSe2などの遷移金属ダイカルコゲナイド原子層は、多様な光電気特性を持つ2D状物質として注目を集め、励起子などを活用した光/電子デバイスへの応用が期待されている。励起子は、光照射などで励起された電子と正孔の対が、クーロン力によって互いを束縛して粒子のように振る舞う準粒子の1つであるが、消滅して基底状態に戻るときに光を放出する“明るい”励起子と、スピンに関わる禁制則などのために光を放出しない“暗い”励起子がある。

WSe2においては、明るい励起子のエネルギー準位の方が高く、ごく短時間で暗い励起子準位に遷移してしまうため通常は発光しない。一方で、先端物理学において、光と物質が強く相互作用する強結合(カップリング)に関する研究が進展し、励起子と光子が結合した励起子ポラリトンが注目されている。励起子ポラリトンは、レーザー光をフォトニック結晶に照射して構成される微小共振器によって実現するが、電界などに敏感に応答する電子または正孔の性質と、コヒーレンス性が高い光子の性質を併せ持ち、位相変調が容易で応答性や動作速度が高い、新しい極微細な光/電子融合素子への発展が期待されている。研究チームは、発光性のないWSe2の超薄膜において、励起子ポラリトンを実現することにより、発光性を持たせることにチャレンジした。

研究チームは、WSe2の単層2D薄膜を一組の分布ブラッグ反射ミラーの間に挟み、レーザー照射して微小共振器を構成することにより、光子と励起子の間の強結合(カップリング)を創出した。その結果、WSe2における明るい励起子のエネルギー準位が分裂して、エネルギー準位の高いものと低いものを生成し、後者は暗い励起子のエネルギー準位よりも低くなって安定化し、短時間で暗い励起子準位に遷移することを回避できるようになった。

研究チームはこの結果をうけ、「WSe2の単層2D薄膜の電子状態のエネルギー準位を逆転させ、暗い材料を光学的に活性化して発光性を実現することに成功した」と説明する。更に、実験結果が理論モデルの予測と高度に整合することも示した。研究チームによれば、光と物質の強結合を活用して材料特性を制御できることを実証する具体的な研究成果であり、「今後、この分野を発展させて、革新的なLEDや太陽電池、有機半導体による光学部品などの開発、更には化学反応の制御にも展開できる」と期待している。

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