シリコン量子ドットデバイス中の電子スピンで、3量子ビット量子誤り訂正を実証 理研

理化学研究所(理研)創発物性科学研究センター量子機能システム研究グループは2022年8月25日、シリコン量子ドットデバイス中の電子スピンを用いて、3量子ビット量子誤り訂正を実証したと発表した。シリコン半導体を用いた量子コンピューターの実現に向けた課題の一つとなっている、量子誤り訂正の最も基本的な実装となる。

シリコン量子ドットデバイスを用いたシリコン量子コンピューターは、大規模量子コンピューターの実装に適していると考えられているが、大規模化には、雑音の影響を受けて量子情報が失われるという課題がある。

この問題の対処には、発生した誤りを訂正する回路(量子誤り訂正)の実装が不可欠であると考えられている。しかし、2量子ビットまでの基本操作はこれまでに実現されているが、シリコン量子コンピューターでは、量子誤り訂正に必要な最低3つの量子ビットを高い精度で完全に制御することは困難だった。

今回の研究では、シリコン量子ドットデバイス中の電子スピンを用いた量子ビットデバイスで、3つの量子ビットを用いた量子誤り訂正を実証。量子ドット構造は、シリコン量子コンピューターで一般的なシリコン/シリコンゲルマニウム半導体基板上に微細加工を施して作製した。ゲート電極に加える電圧を制御することで、量子ドットを高い自由度で形成し、電子スピンの状態を制御できる。

シリコン/シリコンゲルマニウム量子ドット試料 (a)試料の模式図、(b)試料の電子顕微鏡写真

2量子ビットまでの量子ゲートはこれまでの研究で実現しているが、今回の研究では、3量子ビットゲートであるToffoliゲートを実現した。Toffoliゲートは、対象の量子ビット(データ量子ビット)の状態を、2つの補助量子ビットがどちらも0状態のときのみ反転させるため、データ量子ビットの状態を検出した誤りに基づいて訂正できる。

次に、3量子ビットの位相誤り訂正回路をToffoliゲートを用いて実装した。量子回路では、3つの量子ビットを量子もつれ状態に符号化し、3つのうちどれか1つの量子ビットに位相誤りが起こると、補助量子ビットの状態に復号(符号化の逆操作)で反映させ、検出する。

起こった位相誤りの種類に、復号後の2つの補助量子ビットの状態が1対1で対応するため、誤りを検出できる。補助量子ビットの状態に応じて訂正を加えると、データ量子ビットの初期状態を復元できる。

研究では、この量子回路をシリコン量子ビット試料に実装。復号後の補助量子ビットの状態を測定し、誤りの検出ができていることを明らかにした。また、Toffoliゲートを実行し、データ量子ビットを誤りの起こる前の状態に訂正できることを示した。

量子誤り訂正実験 (a)量子誤り訂正実験の量子回路模式図、(b)量子誤り訂正の動作概要、(c)補助量子ビットによる誤り検出、(d)データ量子ビットの忠実度

今回の研究によって今後、基本動作原理を踏まえ、半導体プロセス技術を持つ企業との連携によるシリコン量子ビットの大規模集積化に向けた研究が加速することが期待できる。

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