5G対応の高性能電磁波吸収材料を開発――レアアースフリーFe系磁石合金を採用 東北大とトーキン

東北大学は2023年3月1日、同大学大学院工学研究科の研究グループがトーキンと共同で、5G(SHF帯)に対応する新しい高性能電磁波吸収材料を開発したと発表した。これまでの知られている電磁波吸収材料や市販されている5G用ノイズ抑制シートに比べ、電磁波吸収能が1.5~2倍、伝送減衰率が2倍となっている。

IoTデバイスの増加や、高速/大容量通信ができる第5世代移動通信システム(5G)が普及したことで、通信のために使われる電磁波が他の機器の妨害波となる電磁波干渉(EMI)が深刻化している。EMIは、航空機の運航や医療機器の動作に支障をきたすなどの恐れがあるため、その問題の解決が急がれている。

今回、共同開発した材料は、従来鋳造合金磁石として用いられてきた鉄-クロム-コバルト(Fe-Cr-Co)系合金を用いた新しい高性能電磁波吸収材料となる。永久磁石材料であるFe-Cr-Co系合金は、希土類磁石が開発される以前はアルニコ(Fe-Al-Ni-Co)系磁石と同様に広く用いられていた。

Fe-Cr-Co系合金の組織は、スピノーダル分解という相変態(二相分離変態)により、非強磁性相のCr-rich(α2)マトリックス相中に強磁性相であるFe-Co-rich(α1)相が、50-100nmというサイズで均一に出現した組織形態(二相分離組織)を有している。今回開発した技術は、Fe-Cr-Co系合金の特徴である塑性加工ができ、扁平化できる点を生かしている。

Fe-Cr-Co系合金におけるスピノーダル分解後の走査透過電子顕微鏡(STEM)組織

原料には、市販の平均粒径20μm程度のFe-Cr-Co系ガスアトマイズ粉末を使用(試料As)した。この粉末に、多段時効処理(試料C)、ある試料には続けて連続冷却処理(試料D)を実施。ボールミル加工をこれらの試料As、C、Dに実施し、扁平状粉末を作製した。なお、これらのボールミル加工した試料は、上述した試料名に「BM」を追記し、As-BM、C-BM、D-BMと表記した。

得られた粉末をエポキシ樹脂に高充填化した樹脂複合体を作製し、高周波磁気特性と電磁波吸収特性を測定した。開発したFe-Cr-Co系合金の扁平粉末を用いた樹脂複合体は、Fe-Cr-Co系合金粉末が扁平化し、高充填化された樹脂複合体が作製されている。また、ボールミル加工によって、Fe-Cr-Co粉末の形状だけでなく、スピノーダル分解したα1相も扁平化されていた。

開発したFe-Cr-Co系合金粉末を用いた樹脂複合体の断面写真例

複素比透磁率の周波数依存性を調べると、球状粉末に比べ、扁平状粉末が高い透磁率を示した。透磁率は、充填率の上昇でさらに上昇することがわかった。特にC-BM試料は、電磁波吸収特性を支配するμr”が3.4GHzで6.9と高い値を得ている。

市販の材料や5G用ノイズ抑制シートと、Fe-Cr-Co系合金の扁平状粉末を用いた樹脂複合体の電磁波吸収効果を比べると、6GHz付近とSHF帯(3GHz~30GHz)で、Fe-Cr-Co系合金材料が高い電磁波吸収効果を示した。

開発したFe-Cr-Co系合金粉末を用いた樹脂複合体、各種市販材料の電磁波吸収効果ω×μrʺにおける極大値(ω×μrʺ(peak))の周波数依存性

次に、開発した合金のボールミル粉末を用いた樹脂複合体の電子回路基板における電磁ノイズ抑制効果を調べた。その結果、市販されている5G用ノイズ抑制シートやカルボニル鉄粉(CIP)、扁平状センダスト(Fe-Si-Al)粉の樹脂複合体に比べ、C-BM、D-BM試料は、10GHz~30GHzの高周波側に及ぶ周波数域で優れた伝送減衰率を示したことから、高い電磁波吸収能を有すると判断できる。これらから、Fe-Cr-Co系合金は、SHF帯(3GHz~30GHz)で優れた電磁波吸収材料になりうると考えられる。

開発した材料を用いることで、EMIを抜本的に解決できるデバイスを実現し、高度情報化社会、Society5.0への貢献が期待できる。研究グループは今後、さらなる性能の向上を目指して研究開発を継続する。また、社会実装に向けた取り組みを積極的に進めていく。

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5G移動通信システム対応の電磁波吸収材料を開発 -… | プレスリリース・研究成果 | 東北大学 -TOHOKU UNIVERSITY-

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