- 2022-8-29
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- Journal of Materials Chemistry A, アップグレードリサイクル, アップサイクル, ポリエステル, ポリマー鎖, リサイクル, 加水分解, 名古屋工業大学, 架橋反応, 研究
名古屋工業大学大学院工学研究科工学専攻の林幹大助教らの研究グループは、2022年8月26日に使用済みポリエステルを使い、性能を向上させながらリサイクルする「アップグレードリサイクル(アップサイクル)」の新たな技術を開発したと発表した。従来のリサイクルでは、回収や洗浄、加工にコストが掛かるうえ、品質や性能が低下することが課題だった。
同研究グループによると、ポリエステルに多官能エポキシ化合物と塩基性有機触媒を混合して200℃で熱処理すると、ポリマー鎖が連結していく架橋反応が発生。処理前に比べて耐熱性や力学物性が向上する。こうしてできた材料は、弾性率が約60倍、最大強度は約10倍となった。
また、この材料は高温で結合交換が活性化するため、再成形性や修復性などがあり、加工もしやすい。
研究グループが詳細に分析したところ、この架橋反応は従来の架橋反応とは全く異なり、ポリマー鎖の加水分解をトリガーにして進行する。分解によってポリマー鎖の両末端に架橋性官能基(カルボキシル基と水酸基)が生成され、カルボキシル基と水酸基はエポキシ化合物と反応し、さらにエステル交換反応を介して網目構造が成長。最終的にゲル分率100%の架橋体が生成される。
1940年代からの従来の架橋の概念「Floryのゲル化理論」では、ポリマー鎖末端や側鎖の架橋性官能基の利用が前提となっており、ポリマー鎖の分解は想定されていない。研究グループでは、「分解をトリガーとして反応が進行する」という架橋反応をポリエステルのアップサイクルに利用できることを実証したのは初めてだとしている。
研究グループでは今後、PETやポリウレタン、ポリカーボネート、ポリアクリルなど他の商用ポリマーでも同様の方法でアップサイクルができないか、研究を進めていく。
研究成果は22年8月1日、学術雑誌「Journal of Materials Chemistry A」にオンライン掲載された。