「audiobook.jp」のエンジニアチームを率いて、「音」を通じた新たな体験をユーザーに届ける──オトバンク VPoE北川徹氏

ナレーターや声優が朗読した本の音声をパソコンやスマートフォンで聞くことのできる、オーディオブック配信サービス「audiobook.jp」を運営しているオトバンク。そのコンテンツはビジネス書を中心に数万冊を超え、サブスクによって対象のオーディオブックが聴き放題になる。会員数は直近5年で13倍に増え、現在は250万人超が利用するサービスへと成長している。

オトバンクのエンジニアチームを率いてサービス開発の指揮を執る、執行役員 VPoE(Vice President of Engineering) の北川徹氏は、幅広い経験を生かし、「音」を通じて人々の生活に新たな体験を届けている。今回は北川氏に、エンジニアとして、またマネジメント職として、様々な職場で学びを得ながらキャリアを積み上げてきた経験を語っていただいた。(執筆:杉本恭子 撮影:編集部)

--オーディオブックサービス「audiobook.jp」の特徴を教えてください。

[北川氏]「audiobook.jp」は、日本で最初に誕生した耳で聴く読書のサービスで、コンテンツを自社で制作していることが特徴です。コンテンツができるまでには、まず制作メンバーが読み込んでどのような表現にするか考え、出版元から許可をいただき、音声収録のキャスティング、台本を作って収録、編集して音源チェックをするという工程を経ています。制作工程では、本の魅力を立体化することを意識し、個々の作品にフィットする表現方法になるよう工夫しています。

audiobook.jp」はオフライン再生もできるので、移動中や作業中など「いつでもどこでも」「効率的に」本を聴くことができる

--「audiobook.jp」のユーザーや利用シーンについて教えてください。

[北川氏]ビジネス書のラインナップが充実しているという特徴から、ユーザーは30~40歳台の方が最も多くなっています。スポーツジム、通勤の移動中などのほか、家事をしながら聞いてくださる方もいらして「面倒な家事の時間が学びの時間に変わった」という声もいただいています。最近は「audiobook.jp」を図書館で導入いただく動きもあり、当社としても読書バリアフリー法(※)に対応するサービスとして、活用の場を広げていきたいと考えています。

(※)2019年6月に制定、施行された「視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律」の略称。視覚障害や発達障害、肢体不自由などの障害がある人の読書環境を整えることを目的としている。

独学のWebサイト制作からスタートし、幅広い経験を積む

--では北川さんご自身について伺います。まずエンジニアになろうと思ったきっかけを聞かせてください。

[北川氏]23歳位のときに、趣味のサーフィンで出会った先輩が企画しているクラブイベントで運営の手伝いやDJをし始めましたが、集客のためのWebサイトを作る人がいませんでした。そこで、独学で勉強してサイト作りを担当するようになったことが、エンジニアの道に入るきっかけでしたね。

子どもの頃は、父親の仕事の関係で身近にパソコンがあり、ゲームなどをしていたので馴染みがありましたし、両親が音楽好きだった影響もあってバンドもやっていて、「音」に関わっていました。振り返ってみると、こうした身近な環境から好きなものの種ができて、好きなものを通じて人との接点ができ、それがエンジニアという仕事に繋がったのかなと思います。

--これまで、様々な会社でキャリアを積んでこられたと伺っています。最初はどんな仕事をしていたのですか?

[北川氏]パソコンを使うことが楽しくインターネットが大好きだったので、未経験からでも入れるアルバイトを探し、携帯サイトの構築を受託している会社に入社しました。そこではプログラミングだけでなく、メールサーバーや社内ネットワークの構築などにも関わったことでエンジニアとしてできることが増えました。

しかし、もっとプログラミングスキルを磨きたい、成長産業で働いて自分も成長したいと考えるようになり、当時話題になっていた共同購入クーポンの会社に転職しました。プログラミングをしながら部門間調整なども担当していたので、人をまとめるスキルが評価され、最終的には開発部の部長を務めることになりました。できたての会社だったので、まだ会社の仕組みも整っていない上に、垂直立ち上げのサービスでしたから、何をするにもスピード感が求められました。大変でしたが、能動的に動く必要があったおかげで経験を積みやすく、適応力も養われました。

--その後は、アパレル系やスキルシェアサービスの会社でVPoEやCTOをされていますね。

[北川氏]はい。物理的なモノを扱うサービスも経験したかったことと、前職の上司に誘って頂いたこともあり、アパレル業界で中古品の委託販売サービスを手掛ける会社に転職しました。VPoEとして仕事をしましたが、周りの仲間ほどファッションそのものには残念ながらのめり込めませんでした。改めて自分は「何が好きなのか」と考えてみると、「人と人を繋げる、人と場所を繋げる」ことが好きだと気がついたのです。

そこで次に選んだのは、様々なジャンルの知識を持った講師と受講者を繋げる、スキルシェアサービスを運営する会社でCTOを務めました。人と人を繋げるサービスですし、社会貢献度も高い。私自身も学ぶことが好きなので、魅力的なサービスだと思いました。しかし、提供するサービスは、リアルな学びの場のマッチングシステムで、最終的には先生のコンテンツ次第という面もあり、マーケティングの難しさを感じました。

ここでの経験から、事業ドメインやビジネス全体を理解してサービスを伸ばす手法を知りたいと思うようになりました。それまではずっとWeb系でしたが、リアルな店舗の運営、それに必要なPOS(Point of sales)、ERP(Enterprise Resources Planning)、ビジネスを伸ばすためのマーケティング手法などを知り、実務としてできることを増やしたいと考えるようになりました。そこで次の転職先として、ブランド中古品の店舗を運営する会社を選びました。リアルな店舗の運営やスタッフ管理なども経験し、新たな知識や考え方を学ぶことができました。

扱ったプログラミング言語はPHP、Ruby、Pythonなど。サーバーやネットワークの構築から、サービス運営、マーケティング、経営分析など、その仕事で必要なことを自ら身につけてきた

「仕組み」を社会に提供し、人々の生活を変える醍醐味

--そしてオトバンクに入社されたわけですが、これまで北川さんは何をきっかけに転職を考え、仕事を選んできたのでしょうか?

[北川氏]転職を考えるのは、自分でなくてもできることが増えてきたときです。そして、仕事を選ぶにあたっては「好きなことと仕事を近づけて、得意を活かして働く」ということを大事にしてきました。好きなことに関連する仕事はモチベーションを高く持てますし、サービスや製品を開発するときの情報感度やひらめきも良くなるはずです。「好きなこと」を仕事にしている人が多い職場は、同じように感度の高い人たちが集まっています。自分がより成長するには、そうした人たちと働くことも重要だと思っています。

最初は自分の得意なことが分からなくても、周りの人は意外と自分のことを見てくれているもので、「これ、得意だよね」と数人から言われたら、それを軸にキャリアを伸ばしていくことを考えてもいいのではないでしょうか。

--オトバンクも、同様の考え方で選ばれたのですね。

[北川氏]はい。自分が大好きな「音」に関わる領域で、コンテンツを自ら作っていることが魅力的でした。人とモノ、人と人を繋げる、まとめるという、私の得意を必要としてくれたので入社を決めました。好きなことをやっていきたいという想いと、自分の得意の両方にマッチしたのです。

今は実際に手を動かしてプログラミングすることは少なくなりましたが、採用や人やモノのアサイン、プロジェクトマネジメントなど、オトバンクのエンジニア組織がうまく回るためのすべてが、VPoEである私の仕事です。

--今の仕事の面白さ、モチベーションの源泉を教えてください。

[北川氏]オトバンクは、世の中になかった新しい仕組みをプラットフォームから作り、コンテンツも自社で制作しています。1つの事業ドメインを通して、バリューチェーン全体を考えてプロダクトを開発し、作った仕組みを社会に提供して人々の生活を変えていくということは、われわれのチャレンジであり、醍醐味です。耳からのアプローチによって、隙間時間を価値ある時間に変えられるのは、社会的にも意義のあることだと思いますし、エンジニアとしても、音声領域のユーザー体験を作っていくことに面白さを感じていますね。

オトバンクは音声や新しいサービスに関わりたいという方にはおすすめの環境ですし、弊社としても、これからエンジニアの仲間を増やしていきたいと考えています。

オトバンクは2016年からフルリモート、コアタイム無しのフルフレックスをいち早く導入。遠方に住んでいても、子育て中でも働きやすい環境を提供している 資料提供:株式会社オトバンク

人とコトへの興味、成長欲求、困難を楽しむこと

--北川さんは、ご自身の強みを何だと考えていますか?

[北川氏]決めたことを実現するまで、粘り強く対応する忍耐力と対応力ですね。

1つの目標に向かって突き進んでいくエンジニアと比べて、自分はただ流されているだけではないかと考えた時期もありました。でも、あるタイミングからは、「ここまで広範囲のことを知っている人は他にいない」と言われるくらいジェネラリストに振り切ろうと思い、様々な環境に身を置いてきました。その結果、その時々の環境で必要となる技術や知識を幅広く習得することができたのだと思います。

--ものづくりに携わる人には、どんな素養が必要だと思いますか。

[北川氏]私は3つあると思っています。

1つは、「人とコトへの興味」です。興味のないものに関わってもパフォーマンスは出せません。たとえばWebサービスならば、どういう人が使って、その人の生活や体験が具体的にどう変わるのか、そこに興味を持っていることが必要だと思います。

2つ目は「成長欲求」です。人から言われたことをきちんとやるのも大切なことですが、自分で「これはできるようになりたい」と思い、自分の力で学ぶこともとても重要な素養です。

3つ目は「困難な状況を楽しむ気持ち」です。製品やサービスを作っていく中では難しい課題も多々ありますが、その状況自体も楽しみながら取り組めるといいですね。

--最後に、ご自身はこれからどのようなことをしていきたいか、聞かせてください。

[北川氏]自分が100%良いと思える会社、エンジニアチームを作って、その結果サービスを伸ばし、事業が成長し、みんなで成功する。まず、それを実現したいです。大変なことも多いと思いますが、一緒に取り組む仲間、戦友を作っていきたいですね。

私は環境作りも好きなので、人の成長と向き合って、エンジニアが生き生きと働ける環境を作っていきたいと、強く思っています。

取材協力

株式会社オトバンク
audiobook.jp
募集一覧 / 株式会社オトバンク (talentio.com)


ライタープロフィール
杉本 恭子
幼児教育を学んだ後、人形劇団付属の養成所に入所。「表現する」「伝える」「構成する」ことを学ぶ。その後、コンピュータソフトウェアのプログラマ、テクニカルサポートを経て、外資系企業のマーケティング部に在籍。退職後、フリーランスとして、中小企業のマーケティング支援や業務プロセス改善支援に従事。現在、マーケティングや支援活動の経験を生かして、インタビュー、ライティング、企画などを中心に活動。心理カウンセラー。


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