水電解装置用電極の製造でイリジウム量を10分の1にする技術――独自の積層触媒構造を開発 東芝

東芝は2022年10月7日、太陽光などの再生可能エネルギーで作られた電力を水素などに変換して貯蔵や輸送を可能にするPower to Gas(P2G)技術の普及に向け、希少なイリジウムの使用量を従来の10分の1に抑えた大型の電極を製造する技術を確立したと発表した。同社は2023年以降の製品化に向けて、さらに研究を進める。

脱炭素社会の実現に向け、太陽光発電や風力発電など再生可能エネルギーの活用が進められているが、こうした自然エネルギーを使った発電は、気候や天候による変動が大きく、電力の安定供給のためには電力を貯蔵したり運搬したりする技術が不可欠となっている。

現在、電力の貯蔵/輸送には、水を水素と酸素に電気分解(水電解)して水素に変換する方法が有力とされており、電気分解の方法としては再生可能エネルギー電力の変動に適応し、耐久性も高いPEM(固体高分子膜)を用いた「PEM水電解」方式が注目されている。

PEM水電解では、電解質膜と電極が一体化したMEA(膜電極接合体:Membrane Electrode Assembly)を用い、大規模な電力を水素に変換するにはMEAを何枚も積み重ねなければならないが、MEAで使用する電極には希少金属のイリジウムが大量に必要なことが実用化への障害となっている。

東芝は、この課題を解決するため、成膜技術であるスパッタリング法を用いて、酸化イリジウムナノシートと空隙層が交互に配置された独自の積層触媒構造を開発。スパッタリング法は、真空下でターゲットと呼ばれる成膜材料にアルゴンなどのイオンを衝突させ、はじき出された粒子を基材に堆積させる手法で、同社はターゲットであるイリジウムを堆積させる際、酸素を投入。イリジウムの使用量が少なくても、均一な酸化イリジウム層を成膜することに成功した。

さらに、触媒層を東芝独自の積層ナノシート構造にして触媒の表面積を拡大。こうした手法で水電解性能を保ったままイリジウムの使用量を従来の10分の1に減らすことができた。

また、スパッタリングは真空中で行うため、電極を大型化するのが難しかったが、イリジウムを含む複数の金属ターゲットの堆積配分比率や酸素投入量などの成膜条件を変更して触媒設計し、一度に最大5m2の成膜化が可能な技術を開発。電極の大型製造技術を確立した。

大型スパッタ成膜から切り出した電極写真

同社は東芝エネルギーシステムズとともに、今回の技術を使って製造した電極を用いたMEAを試作し、水電解装置メーカーによる外部評価試験を始めている。今後、MEAの量産化に向けて品質改善などを進め、2023年度以降の製品化を目指す。

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