- 2022-10-17
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- コンパクト・ミューオン・ソレノイド(CMS)実験, ミューオンシステム, 大型ハドロン衝突型加速器(Large Hadron Collider:LHC), 最小電離粒子(MIP), 欧州合同原子核研究機構(CERN), 米国エネルギー省フェルミ国立加速器研究所(FNAL), 高輝度LHC(HL-LHC)
米国エネルギー省フェルミ国立加速器研究所(FNAL)は、予定されていた3年間のシャットダウン期間を経て、欧州合同原子核研究機構(CERN)が大型ハドロン衝突型加速器(Large Hadron Collider:LHC)を再開したことを伝えている。CERNは、メンテナンスおよびアップグレード作業を終えて2022年4月末にLHCを再稼働し、同年7月上旬には第3期運転を開始して過去最高の衝突エネルギーレベルでの衝突事象を記録し始めている。
CERNの研究者たちは今後、高輝度LHC(HL-LHC)用に加速器をさらにアップグレードして運転開始する予定だ。HL-LHCではより多くの陽子が高輝度で衝突するので、アップグレード前に比べて5~7倍もの衝突を観測できると予想されている。さらに、光度の増加に対応できるように検出器の改良にも取り組んでおり、2030年の終わりには20倍以上のデータを蓄積する予定だという。
世界中の大学や研究所から数百人が集まって、新しい検出器コンポーネントの設計、構築、設置に力を注いでおり、追跡システム、タイミング検出器、トリガーおよびデータ収集システム、エンドキャップカロリーメーター、バレルカロリーメーター、ミューオンシステムといった、コンパクト・ミューオン・ソレノイド(CMS)実験における6つの主要分野のシステムアップグレードに取り組んでいる。
CMS追跡装置は、磁場を通過する粒子の軌道を図示する装置だが、ディスクを8枚追加して内側にあるピクセル検出器の範囲を拡大する。外側部分には数千個の小型モジュールを追加する予定で、毎秒4000万回という驚異的な速度で情報を処理できるようになるという。
また、追跡装置の外側に、最小電離粒子(MIP)タイミング検出器と呼ばれる全く新しいレイヤーを構築することで、前例のない精度で粒子の到着時刻を測定し、個々の軌道を区別して4Dで再構築できるようになる。
CMSのトリガーは、潜在的に興味深い衝突事象を選択して関連データを取得し、データ量を管理しやすくするために科学的に良質な事象は切り捨てている。運用時は、トリガーの1つに人工知能と機械学習を採用して大量のデータを取得し、アップグレードしたデータ取得システムはLHCの衝突率上昇に追随してより迅速にデータを収集できるようになるという。
また、CMSは、粒子のエネルギーを測定する検出器であるバレルカロリーメーターとエンドキャップカロリーメーターを装備している。刷新された両方のカロリーメーターから得られる豊富な情報により、CMSは異なる粒子から生じるエネルギー蓄積を再構築することが可能となる。
さらに、新しいミューオンシステムでは電子回路が改良され、時間分解能が向上して、より広範囲の角度でビームから飛んでくるミューオンを検出する能力が高まる。
研究者らは、2026年から2028年にかけて予定されている3回目のLHC長期停止期間中に、アップグレード用部品を取り付ける予定だ。HL-LHCが始動すると、データ量が増大するのでヒッグス粒子のさらなる調査に役立つと見込まれている。