地球上で最も強靭な「高エントロピー合金」を発見

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Credit: Robert Ritchie/Berkeley Lab

約20年前に提案されて以来、新しいカテゴリーの金属として関心を集めている高エントロピー合金(HEA)の1つであるCrCoNi合金が、-253℃の超低温においても極めて高い破壊靱性を有することを、ローレンスバークレー研究所(LBL)とオークリッジ研究所(ORNL)を中心とする共同研究チームが明らかにした。高強度と高い延性や靭性を両立するとともに、耐熱性や耐摩耗性、耐食性などを発現すると期待される、HEA合金の可能性の1つを示す基礎研究例として注目される。研究成果が、2022年12月1日に『Science』誌に公開されている。

人類の文明の発展に主要な役割を果たしてきた金属材料の殆どは、単一基本元素に少量の他元素を加えた合金系である。社会インフラを支える鉄鋼では、主要元素である鉄に少量の炭素や合金元素を加えて高強度を得ている。シリコン半導体では、微量のドーピング不純物を添加することによって、p型とn型の半導体を実現している。

それに対して、3種類以上の元素が主要元素としてほぼ同程度に混合され、混合エントロピーを高めた多種主要元素型高エントロピー合金(HEA)が2004年に提案されて以来、新しいカテゴリーの金属として関心を集めている。多元素の固溶強化を主要強化メカニズムとしているため、微小亀裂などが形成しにくく、高強度と高い延性や靭性を両立するとともに、耐熱性や耐摩耗性、耐食性などを発現すると期待されている。また、その製造に際しては特別な設備を必要とせず、従来からある溶解鋳造設備、あるいは3Dプリンティングを活用して製造することも可能だ。生体医療用材料として、生体適合性や高い細胞接着性を有する高強度Ti-Zr-Hf-Co-Cr-Mo系高エントロピー合金も提案されている。

研究チームは約10年前に、HEA 合金の1種であるCrCoNiおよびCrMnFeCoNi合金の低温靱性に関する研究を開始した。通常の金属材料、とりわけ鉄鋼材料は、室温以下の温度に冷却すると、応力負荷のもと延性や靱性が顕著に低下し、重大な脆性破壊の原因になることが知られている。これに対して、調査した2つのHEA 合金は、液体窒素温度(約-196℃)において非常に高い破壊靭性を示すことがわかった。

研究チームは、更に低温の液体ヘリウム温度(約-269℃)に近い温度における試験を実施するため、10年かけて超低温実験設備およびナノ構造解析ツールを整備した。その結果、-253℃における破壊靭性は、各々459MPa・m1/2および262MPa・m1/2と極めて高いことを確認した。「シリコン、航空機用アルミニウム、最も優れた鉄鋼の破壊靱性が、各々1、35、100 MPa・m1/2であることを考えると驚異的な数字」と、研究チームは語る。

ナノレベルの構造解析の結果、応力負荷に伴って通常材料で生じる転位すべりのほか、積層欠陥やナノ双晶、マルテンサイト変態が連続的に発生し、応力負荷を吸収して変形を担う多くのメカニズムが同時に働くことによって、局部的な歪み硬化や応力集中、微小亀裂が抑制されることが、高い破壊靱性の要因になっていると分析している。ただ、期待される宇宙開発などでの実用化には、更なる研究が必要だと説明している。

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